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腕から圧迫感が消え、そして視界から女の子も消えた。
「!?」
「いったああああああああああ!!!!????」
ハッと周りを見ると大男の背から転がり落ちて、地面で悶絶するその人。
何が起こったか理解ができず茫然とその人を見下ろしていたが、近くにハスガードが立っていたことに遅れて気がついた。
「ハ、ハスガード!?」
驚いて叫ぶとハスガードは、その人に背を向けて私の腕を取る。
大きな手で確かめるように軽く押されると少し痛かったが、優しい手つきにほっとした。
「折れてはないようだ」
「うん。じゃなきゃこんな平然としてないからね…。
それより…」
言葉を切ってからちらりと、ハスガードの後ろで頭を抱えながらダンゴムシのごとく丸まっているさっきまで殺伐とした空気を作っていた人を見る。
その視線に気が付いてか、ハスガードもそちらをみると、心配そうな顔をしていた顔を引っ込めて厳しい顔をした。
「名無し!
お前は何をしているのだ!」
「それはこっちのセリフだ!
なんでハスガードがここにいるんだよ!
あんた、今日は当番じゃないだろ!?」
今まで痛そうに転がってたのをやめて、勢いよく起き上がる名無しと呼ばれた女の子。
今までとても大人びて見えていたけど、ムキになって言い返す姿は妙に子供らしく見えた。
「耶人とテンマが知らせに走ってくれたのだ!
全く…お前はいつもいつも問題ばかり起こして!」
「ク…!耶人とテンマめ…!」
忌々しそうにいうとまたハスガードの拳骨をもらう。
さすがに2度目はダメージが大きかったのか、声も上げずに地に伏せる。
「…だ、大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかけたが、返事はない。
てっきり気絶したのかと思ったけれど、小さく唸っているのを見ると痛みのあまり話す気力がないらしい。
「ナナシ!大丈夫か!?」
「テンマ!耶人!」
駆け寄ってきた二人は心配そうな顔をしたが、私の様子を見て無事なことを悟ったらしい。
上がった息を吐いてから耶人は捲し立てた。
「たく!なんで名無しにケンカ売るんだよおまえ!
下手したら怪我じゃすまなかったぞ!?」
「…名無しって、あの子?」
耶人は地に伏せるその子とすぐ近くで仁王立ちで見下ろすハスガードを見比べた後、うなずいた。
「あいつは名無し。
南冠座の聖闘士だ」
「え、あの子聖闘士なの?」
「ああ。あいつは強いからな。
かなり前に聖衣を受け取ってんだよ」
「なるほど……。」
確かに、さっきの威圧感はすごかった。
前にカルディアから向けられたのものとも違う威圧感……。
仮面や、さっきの大人びた態度のせいで分かりづらかったけど、私と大して変わらない女の子があんなにすごい威圧感を出すなんて…やっぱり聖闘士ってすごい。
「ぅぐ…い、一瞬黄泉比良坂が見えたぜ…」
ようやく痛みが収まってきたのか、
頭を押さえながらゆっくりと名無しが起き上がった。
「あ、だ、大丈夫?」
「んー、なんとか。
流石に脳天だったから痛かったけど」
頭をさすりながらたちあがった名無しさんは、若干ふらついていたがはっきりとした口調で答えた。
威圧感も何も感じない軽い様子で私の方を向いて頭を下げた。
深々と下げた頭から、結ばれた銀の髪が地面に向かって伸びる。
「さっきはすみません。
あたしも少し頭に血が上ってた」
「え、いえ!大丈夫です!
私こそ何も知らないのに乱入してすみませんでした!」
「気にしなくていいよ、大したことじゃなかったから」
反射で頭を下げる私に名無しさんは手を差しだした。
「もう耶人から聞いてるだろうけど、改めて自己紹介させてもらうよ。
あたしの名は名無し。南冠座の青銅聖闘士。
よろしくね」
「私はナナシ!
聖域で居候させてもらってるの!
よろしくね!」
「ナナシ?」
名無しさんは私と握手しながら、小さく首をかしげた。
そして、「あぁ!」と叫んだ。
「ナナシって、あれか!
師匠たちが最近お熱な女神様ね!
大地と豊穣の女神様…だっけ?」
「え、あ、うん。そうだけど…」
確かに私はデメテルの神格なのでその認識で正しいのだが…。
誰だ、師匠って。
というか、なにその覚え方…?
そんな私の疑問も知らないで、しきりになるほどなるほどとうなずく名無しさん。
「成る程ねぇ。
修行サボって師匠たちが構いたくなるはずだよ。
可愛いうえに度胸もあるじゃ、男ならだれでも惚れるもんだよね」
いやいやいや、可愛くないから。
それに度胸じゃなくてあれは考え無しが故の行動だからね!
そう否定したかったが、あまりに納得したような様子に否定することもできない。
その代わり、湧いた疑問について尋ねることにした。
「名無しさん、師匠って一体…?」
名無しさんはあたしの質問をさえぎって首を振り、笑った。
「名無しでいいよ。
女神にさん付けなんてさせたら、あたしがセージ様に烈火の如く怒られる」
「あ、うん。
じゃあ、名無し。
師匠って、誰のこと?」
名無しの断片的な話では思い当たる人がいない。
そう思って聞くと名無しは嬉しそうに、誇らしそうに背筋を伸ばした。
「あたしの師匠はね、キャ「こんの、馬鹿弟子ぃいいいい!!!!!!!!!!!!」
なにかを名無しが言いかけたと同時に、またも何かにさえぎられた。
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