real time

三歩進んでビーダッシュ






::きっと

Twitterで書いちゃったからこんなに時間がかかっちゃったんだろうね。
めちゃくちゃ長いよ。
私が書いたSSの中で一二を争うほどに長いよ。
びっくり。
ひゃー、難産だった。
感覚としては、GLaDOSが起きる前の話。
GLaDOSは夢の中です。
寝坊助ぇえええええ!!!
起きろぉおおおおお!!!



朝起きて、GLaDOSと挨拶して、Wheatleyとふざけて、チェンバーを駆け回って、GLaDOSと話して。これが私のいつものルーティーン。きっとこれから先もずっと、私が死ぬまで続くと思ってた。し、今も思ってる。だから今、私の目の前で起きてる惨状は夢だって信じてる。

信じてるから、お願い、早く醒めてよ。

「ねぇ、……GLaDOS」

こんなはずじゃ、ないんだ。
こんな事は、望んでない。

「わた…しは……私はただ…」

いつも通りの日常を繰り返そうとしただけなんだ。
だのに、だのにどうして、

「GLaDOS……!」

君は私の目の前に崩れ落ちているんだ。
おかしいじゃないか。だって君はAIで、たった1Vしか電力がなくても生きていけるのだ、と、言っていたじゃないか。先に死ぬのは私の方だと、君は冗談めかして言っていたじゃないか。

だというのに、どうして、きみは、なぜ、なぜまたきみは、そうやって、

「笑えない冗談はやめてよ……ねぇ…」

私の前から、世界からいなくなろうとするんだ。
今回ばかりは騒がしい青い目のコアも口を閉ざしそのなりを潜めて私を見ている。間抜けで空気が読めない彼らしくない。

「私は…私はどうすればいいのよ…!」

『Chell……、』

目を閉じて、自慢の青い瞳を隠したコアが、ゆっくりと口を開いて私に淡々とした音を投げる。

俺たちも有限を生きてるんだ。永遠なんてどこにも存在しないのさ。
彼女は確かに特別さ。でも"例外"じゃあない。
俺達にだって寿命はあるんだ。終わりが存在するんだ。
"科学のため"だなんて言っても、その"科学"にも限界がある。永遠じゃない。当たり前の事さ。
わかるだろ。お前はそこまでバカじゃないだろ。
俺と違って、Chellは正解を導き出す事が出来る。
これからどうするか。
どう生きるか。
全てChellが自分で考えて決めていくんだ。誰のためでもなく、自分自身が後悔しないように。
GLaDOSだって、それを望んでる。
Chell。聞いてくれ。
彼女は心から君の自由を願ってた。お前が此処に戻ってきたときから。きっと今だって願ってるはずさ。
友として、
親として、
自身が愛した人間の幸せを祈ってる。
応えてやってくれよ……お願いだ。

青い瞳の彼は、悲しむように、すがるように、同情するように、慰めるように、慈しむように、宥めるように、一言一言を私に向かって投げる。
まるで我儘を言い続け、親を困らせる子供を諭すような口調で、優しく懇願する。

「私の自由を彼女が願った?そんなの知らないよ。私にはGLaDOSしかいなかったんだよ。それを、今更どうやって私に外で生きていけって言うの。私には何も出来ないんだよ。笑っちゃうほど無力なんだよ。彼女が私の世界だったんだよ。それなのにさ、ねぇ、無茶苦茶言わないでよ……なんで…なんでなの、なぜ貴女が、先にさぁ、私を置いてかないでよ……私を独りになんかしないでよ……」
『……1つ、Chellは間違ってるぜ』

天井のレールからこちらを見下ろす青い目のコアは私が「間違ってる」という。
一体何が間違っているのだろう。
私の世界を構築していたGLaDOSを失った今、「私」という個体は自身が存在する世界を、居場所を、意味を、意義を喪い、ただの無価値なガラクタに成り下がってしまったと云うのに。

『そうじゃないだろ』

そうじゃない。
そうじゃないだろ。
独りなもんか。
無力なもんか。
俺にはできないがお前ならできるだろ。
独りが嫌なら。
彼女が欲しいなら。
起こせよ、奇跡を。
やり方はもう知ってんだろ。

『俺を生き返らせたみたいに、GLaDOSを再構築すんだよ』

GLaDOSはAIだ。
AIには明確な「死」が訪れることはまず、有り得ない。
俺たちAIは絶えず何かしらのネットワークに繋がっている。
データはその都度書き換えられるが、その都度保存しアップロードしバックアップを取っている。
「不足の事態」に備えてってヤツだ。
それに、彼女は言ってたじゃないか。
俺たちに起こされるまで、何年も何年もお前に殺される記憶ばかり見てたって。
どういう事かわかるだろ?
緊急保存機能が、俺たちには備わってるんだ。
GLaDOSは死んでなんかいない。
きっと今も、彼女は、GLaDOSは、長い長い夢を見てるんだ。
起こしてあげなきゃいけないんだ。

「…」
『なぁ、Chell。頼むよ…』

俺だって寂しいんだよ。
不安なんだよ。
怖くて怖くて仕方ないんだよ。
だから、だからそんな

『今にも死にそうな顔しないでくれよぉ…ッ!』

GLaDOSがいなくて、お前まで喪っちまったら?
俺には何も出来ないんだよ。
それをお前はよく知ってるはずだろ……?
なぁ、なぁ……!
前を向いてくれよ、
立ち止まらないでくれよ、
お前にしか出来ないんだよ、
お前に彼女が必要なように、
俺にはお前が必要なんだよ、

だから、ほら、頼むよ

『俺と一緒に…』

青い瞳のコアが泣いていた。

彼らは涙を流さない。
彼らにそんな機能はない。
しかし確かに泣いている。

馬鹿な噺だ。
元来機械の身体に人工のプログラムを宿した彼らAIが、泣いているんだ。
独りは嫌だと。助けてくれと。希望にすがって泣いているんだ。
何と馬鹿げた噺であろうか。だってそうだろう?
彼はAIでいながらにして、人間である私なんかよりよっぽど人間らしく希望を渇望してるじゃないか。
本来ならば、彼は私の未練を絶ち、無理矢理にでも前を向かせ、この施設から追い出さなければならないのだ。
しかし彼は言う。独りは寂しいと。一緒にいてくれと。自分のために、彼は言うのだ。効率や生産性なんてお構いなしに。ただ自分自身の欲望のために。
人間である私は、投げ出そうとしていたと云うのに。機械である彼は足掻こうと云うのだ。

嗚呼。何て私は愚かなんだろうか。
自分の価値とか、意味とか。
そんなのは、これっぽっちも関係ないじゃないか。
最初から私のやるべき事は決まっていたじゃないか。

彼女を喪いたくない。
彼女の傍に居たい。

結局は私も彼も同じなんだ。
自分本意で、我が儘。
自分で自分を終わらせるのは、もうどうする事もできないと決め付けるのは、どうやらまだまだ早すぎるらしい。
まだできる事が残ってる。
まだ醜く足掻く余地が残ってる。
それを、そんな当たり前なことを、悔しいことに、間抜けな彼に教えられた。

「……ったくさぁ、泣いてんじゃねぇよマヌケ」
『泣いてねぇよバカ』
「私一人でGLaDOS起こせるわけないじゃん。ばーか。手伝えよ相棒」
『…ハッ、さっきまで死にそうな顔してたくせに。誰が一人でやれっつったよ。お前こそバカじゃねぇの』

不安がないなんて言えば嘘になる。
怖くないなんて言えば嘘になる。
でも、私は

「"独り"じゃあ…ない、んだよね」

青い目のコアが不思議そうな目でこちらを見て、

『Chellが俺のこと忘れて独りにしないでって言ったときはどうしようかと思ったよ』

少しだけ笑って、

『俺に寂しい思いさせんじゃねぇよ』

だなんて茶化すから、

「Wheatleyは私のこれまでの人生の中で最悪最低な最良最高のバディだよ」

当たり前だろ、と笑う彼に元気を貰い、顔をあげ、崩れ落ちた彼女を見据える。

「一仕事しますか、」『頼りにしてるぜ、』

『「相棒」』


[モーニングコール]


眠ってしまった彼女を叩き起こしてあげよう。
私のために。
彼のために。

だってまだ、

「GLaDOSの口から好きって聞いてないもの」


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