新開隼人 2023誕生日

 眠るナマエの下がった眉毛。無防備に薄く開いた唇に軽くキスをすると無意識に微笑むようになったのはいつ頃からだろう。

「ナマエ、ちょっと行ってくるよ」
「……んー。気をつけて」

 接触冷感のタオルケットを抱きしめて、ふにゃふにゃした寝ぼけた声のナマエが背中を丸める。掛け違えたボタンは昨夜の名残を思い出させて、思わず口元が緩むのを自覚した。緩く襟元の開いたパジャマは軽く背中側へと引けば細い肩が露わになる。昨晩つけたばかりの痕は、まだ綺麗に色付いていて、思わず昨晩と同じように白い肌へと唇を寄せた。

「隼人?」
「ん、なんでもない」

 柔らかい髪に少しだけ触れて、薄く色付いた肌に自然と口角があがった。ナマエを抱きしめて、このままもう一度眠りたい誘惑に負けそうになりながらも、体を離す。

「……やっぱりだめ」
「ナマエ?」

 気怠そうな仕草で身体を起こしたナマエは瞼を擦りながら、ぎゅっと腰に抱きついてくる。そのままズルズルとジャージを引きずり下ろしそうな勢いに思わず吹き出してしまった。

「行っちゃダメ」
「いつものロードワークだから、すぐに帰ってくるよ。急にどうした?」

 ギジリ、と、軋んだベッドの上でナマエが子供みたいに嫌、と首を振る。ぎゅっとしがみついた細腕は抗おうと思えば簡単に解けるけれど、珍しくも可愛いワガママに思わず顔が緩んでしまった。

「冷蔵庫の中、見たよ。今日はいっぱい美味いもの食わせてもらえそうだから、少し走ろうと思ったんだけど」

 冷蔵庫の中に詰め込まれた食材から連想されるのはオレの好物ばかり。ケーキも手作りするんだろうなと期待したくなるほどに、この数日ナマエは忙しそうにしていた。スマホでレシピを見ていたり、試作品を作ってみたり。オレの誕生日なんて覚えてません、みたいな涼しい顔をしながら夜な夜な頑張ってくれていた事を知らないはずがない。

「……ダメ、今日は私が隼人を独り占めするって決めてるから」

 一緒に暮らし始めて、そろそろ半年。ナマエが初めて見せてくれる反応が珍しくて、思わず緩む口元を押さえる。半分まだ眠たそうな、蕩けた視線で見上げたかと思えば、ナマエの細い指先がオレのジャージのジッパーをゆっくり下げた。

「ナマエ?寝ぼけてる?」
「……寝ぼけてないよ」

 もう一度ベッドに戻って、とでも良いたげに引き寄せられれば抗う気持ちになどなるはずもなく。ジャージをするりと脱がされて、ナマエが望むままに、そのままベッドへと押し倒されればナマエがふにゃりと蕩けたように笑う。

「隼人、誕生日おめでとう」

 柔らかい指先がオレの唇をなぞると、ゆっくりと右手を絡める。

「私が隼人の好きなところはね」

 ぽってりした厚い唇とか、甘くて優しい声とか。柔らかくてふわふわした髪に触るのも好き。
想像よりもずっと大きな手も、ゴツゴツして男らしい手が優しく触れてくれるのも好き、なんて一つ一つ好きを数えてくれる。

「……ナマエ」

 ナマエの甘い声が紡ぐオレの好きなところ。素肌をなぞる掌の温度が恋しくて、そのまま彼女の腰を抱き寄せて口付けようとすれば、不意に顔の前には箱があった。

「はい、誕生日プレゼント!」

 ベッドの下から引っ張り出したプレゼントの中身は新しいサイジャ。隼人に似合いそうな色、探したんだよなんて、はにかみながら笑うナマエはすっかり目が覚めたのか、目をキラキラさせて笑っていた。
 ジャージを脱がせたのは、新しいサイジャを着せるためだったのか、なんて言えるはずもない。朝からすっかりその気にさせられて今日が土曜日で良かったなぁ、なんて内心ニヤニヤしていたと知ったらナマエはどんな顔をするのだろう。

「……ありがとう」

 引き寄せた細い腰をなぞりながら、この後オレはどうするのが最適解なのだろうと考える。今日はオレの誕生日。ナマエは多分、オレが何やったって「そういう所が好き」って笑ってくれる様な気はするけれど、とりあえず力いっぱい抱きしめてから、考えようかなと思った。
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