女子会後の彼女を迎えにくる隼人

 いつものお店にいつものメンバー。散々飲んで喋って、楽しそうな声で笑うナマエに普段よりも甘えた声で「隼人、迎えにきて」とおねだりされるのは嫌いじゃない。
 月に1度の女子会くらい、好きに行けばいいと思うし、楽しそうなナマエを見るのは好きだ。いつも迎えに行くと、すっかり酔っ払って出来上がっているナマエが潤んだ目でオレを見つけた瞬間、微笑むのも嫌じゃない。
 
「あ、隼人だぁ」
「ん、そろそろお開きでいいのか?」

 楽しかった?と問い掛ければ満面の笑み。ふわふわと普段よりも緩んだ緊張感のない表情も甘えるみたいに絡みつく腕も愛おしい。テーブルにはそれぞれ頬を染めたナマエの友人達が恋人の迎えを待っている。どこか待ち遠しそうに、瞳を細めて思い人を待つ横顔にナマエがオレを待つ間の表情もこんな風なのかなと思ってしまった。ナマエはオレを見つけた瞬間、立ち上がって手を振るし、満面の笑顔は花が咲いたみたいだ。

「じゃあ、また集まろうね!」

 ナマエの元気な声に友人も楽しそうに笑っていて、それだけでも幸せな時間だったのだと思う。同棲をはじめてお互い友人との飲み会に口を出したことはないけれど、彼氏との惚気を永遠と語り合う会だと聞かされれば悪い気はしない。
 高めのヒールもひらひらした金魚みたいなスカートも。初めの頃は酔っ払って転ぶんじゃねぇかと心配したけれど、最終的にオレが迎えにくる事を大前提にしたナマエの姿だと気付いたら顔がにやけてたまらない。

「ほら、ふらついてるから気をつけて」

 店を先に出たナマエに他の男の視線が一瞬向けられる。元々愛想が良くて人当たりの良いナマエは酔っ払ってると目があった瞬間、にこっと笑う癖があるから目を離せない。思わず左腕をナマエの腰に回して抱き寄せれば、無防備な笑顔はオレだけに向けられる。

「隼人、優しい!そういう所好き!」
「オレも好きだよ」

 綺麗な顔に無防備な笑顔。そういえばナマエに落とされた時もこのギャップにやられた事を思い返しながら、ゆっくりとした足どりで夜の街を歩く。BGMがわりにナマエがオレの好きな所を羅列するのは、女子会帰りの楽しみだった。

「隼人のねぇ、ちょっとダメな所も好き」
「……ん?どういうこと?」

 ふにゃふにゃ笑いながら、オレの厚い唇が好きだとか、ゴツゴツした手が好きだとか。思わず聞いていてニヤつくナマエの言葉に酔いしれていると、不意に爆弾投げられて思わず足が止まる。
 酔っ払ったナマエはいつも帰り道の記憶がない。次の日、ちょっと二日酔いで気だるそうにベッドの中で頭を抱えているナマエは「昨日もごめんね」なんて申し訳なさそうにうなだれるのが定番だった。
 オレの腕に絡みつきながら「隼人の匂い、好き」なんて深呼吸するのも普段なら絶対にしない。手首を引き寄せて何をするのかと思えば不意打ちのキス。手首にほんのりつけられたナマエの色と「コレ、私の」と指先を絡められたら酒の力は恐ろしいと思った。

「……ナマエ、今日は一段と酔ってる?」
「酔ってなーい。甘いのに甘くない隼人の匂い好き」
「ちょ、危ないから!」

 ヒールでフラフラするナマエが転びそうになるから慌てて抱きしめれば、首筋に回される腕。きゅっと細腕で絡み取られれば思わず喉が鳴るのは本能かもしれない。ここが家じゃないことが悔やまれる程度には理性と戦いながらナマエをぎゅっと抱きしめる。
 ナマエが好きだという香水は気がつけば彼女がいる時だけにつける様になった事、知っているのか、知らないのか、それともあえて気がつかないフリをしているのか。

「オレもナマエが大好きだよ」

 電車に乗り込んで、ナマエを片腕に抱き寄せながら誰にも聞こえない様に耳打ちをすれば、へにゃりと下がる目尻に愛しさが募る。
 家までは電車で3駅、そこから歩いて15分。これでもかと言わんばかりにオレの指を弄んだり、香りを楽しむみたいに腕に顔を近づけるナマエ。

「ねぇ、隼人」
「何?どうした?」

 内緒話をするみたいに腕を引かれて、体を屈めればナマエからの耳打ち。

「……はやく隼人の事、独り占めしたい」

 どこか切なそうに溜息をつかれて、思わずその場に座り込みそうになるのを必死に堪えて、笑顔を取り繕う。ポケットに捩じ込んだ財布の中身。漱石二枚じゃどこにも泊まれねぇ、なんて奥歯を内心噛み締めて、あと三駅すら我慢の効かないオレは、やっぱりダメな男なのかもしれない。
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