身長( 幼馴染の荒北 )

 幼馴染というのは非常に面倒なもので。ガキの頃から知っている分、黒歴史的な事までバレている。家が隣同士なんて最悪で両方の親がお互いの子供の頃の写真まで持っているし、下手をすれば何歳まで風呂に一緒に入ってたなんて話まである。そんな相手を好きになるなんて自滅だと分かっていても、コントロールが出来ないのが人間で。うっかり好きになってしまったら、もう後戻りは出来そうもない。

「靖友、おかえり!」
「オマェ、なんで毎回オレの家にいるわけ」

 箱根学園に入って自転車を始めてから実家に帰るのは夏と冬の長期休暇で部活も休みになる限られた期間だけ。玄関を開けようとすれば鍵は開いていて、荷物片手に入れば向けられたのは満面の笑顔。一瞬、胸が大きく高鳴る。期待していなかったといえば嘘になり、毎回帰る度に幼馴染がオレの自宅で出迎えてくる意味をいつか聞いてみたいと思いながら、腐れ縁と言われるのが怖くて口には出せなかった。

「おばさん達、買物行ってる。今日の夜は靖友の好きなもの作るって言ってたよ」
「なんで、テメーがうちで留守番してんダヨ」
「靖友が帰ってくるって聞いたから、会いに来たんじゃん。ほら、早く上がりなよ」
「オメェの家じゃネーヨ!」

当たり前みたいな顔して、オレの部屋に先導するコイツが何を考えているのかなんてわかるはずもない。案の定、久しぶりに帰った自分の部屋はコイツが持ち込んだらしい懐かしいアルバムが積んであった。

「コレ、どっちのヤツ?」
「うちのやつ。この前見てたら懐かしくて。靖友が来るって聞いたから持ってきた」
「へー。わざわざごくろうサン」

 荷物をベッドに放り投げて、袋に入った菓子の箱を突きつける。

「コレ、オマエの家の分」
「温泉饅頭だ、ありがと。コレ、前もらった時に美味しかったんだよね」

帰省の手土産を当たり前の様に二軒分用意する自分もバカだなと思う。会いに来ることを当たり前だと期待する自分がズルいような気がしたが面倒なことは気づかないフリをする方が楽だった。

「クソガキの頃か」
「それは、靖友だけじゃん」
「オマエもダヨ。見てみろ、このクソガキ二人」

懐かしいアルバムを片手にベッドに座れば、当然のように隣に座ってくる。危機感は幼馴染という関係では欠落するのか、寄り添ってくるとオンナの匂いがして心臓が揺れる。

「オマェ、だんだん縮んでるんじゃナァーイ?」
「私が縮んでるんじゃなくて、靖友がバカみたいに伸びてるんでしょ」

アルバムのページを捲るたびに、目立つ身長差。小学校入学の写真はオレの方が小さいぐらいで。徐々にその差は開いていって、中学の入学と卒業では驚くほど差が出来ている。ガキの頃は手を繋いでいた写真もいつの頃からか距離が出来ていた。中学の卒業式に至っては顔を背けた自分の姿がひどくガキに思える。隣に並んで、少し困ったように笑っていたコイツはこの頃の俺をどう見ていたのだろう。こんなにも長い間一緒にいたのかと思う反面、中学の卒業式を最後に、そこから先の途切れたページがどこか寂しさを思わせる。

「また、背が伸びたんじゃない?靖友、ちょっと立ってよ」
「アァ?こっちは疲れてんだよ。ったく、しゃーネェナ」

背中を叩かれて渋々立ち上がれば、背中越しに触れる温もり。肩に触れた頭がアキチャンが甘えるみたいに擦り付けられて、驚いて振り返ろうとしたら背後からぎゅっと手を回される。

「……靖友のバカ。どんどん遠くに行かないでよ」

寂しいよ、と告げられた言葉に心臓が跳ね上がる。今、振り返って抱きしめれば、コイツとオレの関係も変わるんだろうか。靖友、って呼んでいつも満面の笑みを向けてくるコイツが背中で泣いている気がして、回された手にそっと触れる。握りかえされた手の小ささにたまらなくなって振り返れば、写真の中よりずっとオンナの顔した幼馴染が泣き笑いを浮かべていた。
- 106 -
[*前] | [TEXT] [次#]
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -