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誕生日を祝ってくれる荒北

 物欲のないヤツだとは思ってた。誕生日プレゼントに欲しい物ネェの、って何回聞いても「荒北君がいれば何もいらないよ!」なんて、嬉しそうに笑うアイツに何回「そんな事聞いてネェヨ!」って怒ったかわからない。結局、一緒に過ごしたいだの、ケーキ一緒に食べたいだの、そんなの頼まれなくてもやってやるような事ばっかり真顔で言ってくる。そんなやりとりを何度も繰り返した結果、この黙ってても「荒北君大好き」って匂いがプンプンしてるコイツの驚く顔が見てみたい、と思ったりしたわけで。マジで何もいらネェ、なんて言った事を後悔させたいような、びっくりして目を丸くする姿が見たいような。そんな、よくわからない感情に突き動かされて今日の日を迎えた。

「……なんでもお願いきいてくれる券?」
「東堂と新開からの発案。プレゼントなんでもいいとか言うから思いつかネェヨ」

 仕事終わりにオレの部屋に泊まりに来たナマエと食ったのはデリバリーのピザとからあげ。閉店間際に駆け込んだケーキ屋で買ったショートケーキを幸せそうに頬張るナマエは「今日、会えて嬉しい」なんて、欲のない事を相変わらず言っていた。美味しいってケーキ食いながらニコニコしている鼻先に突きつけたのは5枚綴りの紙。高校から名前の事を知っている東堂と新開が「ナマエさんが一番喜びそうな物」だと提案したのは、オレに関するものばかりだった。「荒北がいればナマエさんは他に何にもいらねぇ、とか言いそうだな」なんて新開が腹抱えて笑ってたが、マジで言われたとはさすがに言っていない。
 とりあえず、しょんぼりした顔が小動物みたいで可愛いとは思っているから二人のふざけた案を採用してみたわけで。キョトンとした顔が紙とオレを見比べる。

「コレに懲りたらクリスマスは……」
「え?何でもいいの!嬉しい!わ、5回分もある!」

 コレに懲りたらクリスマスは何か言えヨ、と言おうとしたのを遮るナマエの声。苺を頬張りながら幸せそうに笑うから、思わず顔が引き攣ってしまう。そこは喜ぶところじゃネェ、しょんぼりする所だろうが!
 オレの脳内じゃ、しょんぼりしても「ありがとう」って可愛いツラするから冗談だってポケットの中に隠してるプレゼントと交換して、喜ぶ顔を見るつもりだったのに。

「えー、何お願いしよう!」

 むちゃくちゃワクワクしてるナマエにポケットの中に入れた手が行き場を無くす。いや、喜びすぎだろ。二十歳過ぎた女が彼氏からふざけたプレゼント貰ったら怒るとこだろ。

「それ、冗」
「何でもいいんだよね!?何でも聞いてくれるんだよね?」

 冗談だとすら言わせてもらえない。オマエ、オレに何させる気ダヨ、と思いながらもびっくりするぐらいナマエが喜ぶから裏面をよく見ろと本音は言いたい。新開の字で期限、今日の日付になってることすら目に入ってネェ。嬉しそうに笑いながら、ナマエが手帳に挟む。コイツ、高校の頃からそういえば興奮すると人の話聞かねェわ。

「……そんな喜ぶかヨ。安すぎ」
「だって、荒北くんが何でも言うこと聞いてくれる券だよ?手作りだよ?」
「作ったの東堂と新開だけどォ」

 緩みきった笑顔で手帳握りしめてフワフワしてるナマエに呆れながら頭を小突く。

「明日も仕事だから、ケーキ食い終わったら先に風呂入れ」
「はーい!荒北くんの部屋から出勤とかドキドキするね」
「オマエんとこより、会社遠いけどネ」

 ナマエは素直で感情豊かで、よく笑う。幸せそうな顔でバスルームへ入っていく小柄な背中を見送って思わず溜息をついた。

「……コレ、どーすんの」

 ポケットの中にはタイミングを失って渡し損ねた指輪のケース。どんだけ苦労して薬指のサイズ調べたと思ってんだ、あのバカは。

「……寝てる間にハメとくか」

 それなら明日の朝、出勤前に大騒ぎする顔が見れるわけで。それはそれで悪くないなんて、思ったオレがバカだった。

「荒北くん!指!指輪ついてる!!」

 いつもなら寝たら朝まで起きないナマエがなぜかこの日に限って、夜中の4時に目を覚まして。泣きながら隣で寝ていたオレを叩き起こしたのは自業自得だったかもしれない。煌々と電気までついていた。

「……誕生日、おめでとォ」
「日付もう変わったけど!?」

 とりあえず、ワンワン泣いてるナマエを抱き寄せれば、鋭いツッコミが返ってきたけど問題なのはそこじゃない。

「……とりあえず朝まで寝てくれナァイ?」
「無理。もう目が覚めた!え、指輪いつ嵌めたの?これ、前に欲しいって言ってたやつ覚えてたの?」

 ナマエの右手薬指にピッタリはまった指輪。予想通り驚いた顔も、泣き顔も、幸せそうな笑顔も期待した以上だったけれど。とりあえず、夜中の4時に叩き起こされても全然記憶に残りそうもなく、眠気に勝てるわけもなく。騒ぐナマエに背中を向けて目を瞑ることにした。

「荒北くん、寝ないで!!」

 すっかりテンションの上がったナマエを無視して強引に寝ようとして、頭を枕で隠しても横から取り上げられる。ギャーギャーと夜中にウルセェ、近所迷惑だと思えばナマエを黙らせるしかない。

「……夜中に騒ぐな、ウルセェ」

 リモコンで電気を消して、ナマエを抱き寄せて腕の中に閉じ込める。賑やかな唇をキスで塞げば、ナマエが息を呑むのがわかった。こういう時、すげぇ可愛い顔をするのを知っていたのに電気消すタイミング間違えたナァ、なんて思ったけど今更遅い。
 とりあえず思う事はただ一つ。ナマエ、誕生日おめでとう。

 
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