隼人視点
どう考えたって、ダメな男に引っかかるのは見る目がない。名前が付き合っていた男は、学部の中では割と女癖が悪い事で有名なヤツで見る目がねぇなぁ、なんて喉まで出かかった言葉を何度か飲み込んだ。まぁ、たまに本気でそろそろ別れたら、なんてナマエには言ったけれど、皮肉も冗談だと聞き流されて気付く気配もない。
だから、ナマエが別れたと聞いた時はやっとかと思った反面、落ち込んだ横顔を見れば、つけこもうとする自分に二の足を踏む。それでも他の男につけ込まれるぐらいなら愚痴もヤケ酒も、飲み込んでやるからオレの所にいれば良いと思ってしまった。
「もう、ほんと信じられない!」
「そうだなぁ、おめさんはよく頑張ったよ」
いつもよりハイペースで酒を飲み続けるナマエの顔は真っ赤で。時々、潤んだ瞳で元カレの事を語る姿は辛くないと言ったら嘘になる。けれど、空っぽになった気持ちが見え隠れしているナマエを見れば、放ってはおけなくて。こんな弱った状態で合コンなんて行かれた日には、ロクな目に合わないに違いない。
「本当はさぁ、悔しかったんだよ」
散々食べて飲んで、フラフラ歩くナマエが寂しそうに呟くから。無意識の言葉と揺れる足元が放っておけなくて、捕まえておきたくなる。「まだ帰りたくない」なんて、隙だらけの言葉に「じゃあオレの家に来る?」と言わなかったのは、うちにカーテンがないからじゃない。少しの信頼も裏切るような真似はしたくなくて、けれどこんな弱った名前を他のヤツには見せたくなくて、カラオケという微妙な場所に向かった。失恋ソングも聴いてやる。泣くなら胸も貸してやる。オレの頭の中もいい具合に酒に酔っていて、理性だけは手放さない様に、涼しい顔をするのが精一杯だった。
「ナマエさ、この曲知ってる?」
「えー?どれ?」
「元カレコロス」
「何そのタイトル……!」
「高校の時の友達がさ、前にカラオケで歌っててヤベェなって思ったんだよ」
トロンとした眠たそうな目を必死に開けて、オレの顔を見つめる眼差し。このままオレの事だけ見てれば良いのになんて思いながら、半ばヤケになってマイクを握る。こんな姿、寿一や靖友達には見られたくねぇなぁ、なんて内心笑いながら歌い始めれば、ナマエが腹を抱えて笑い出した。
そりゃもう、半泣きしながら声上げて笑ってるナマエを見てれば、何でもやってやりたくなるし、沸々と元カレに湧き上がる怒りが微妙に歌詞とリンクする。
「新開君、顔と声の無駄遣い!」
オレも酔ってるんだな、なんて今更自覚をしながらも、ソファーに倒れ込んで笑うナマエにバキュンポーズなんて向けてやれば「新開君、最高!」と手を叩いて笑う。もう一回やって、なんて無茶振りをなんとか宥めてフリードリンクを取りに行く。戻ってみれば、ナマエはそのままソファーで丸くなって眠っていた。
「疲れて寝ちまったか」
眠る名前に上着をかけて、起こさない様にそっと隣に座る。無意識に元カレと間違えているのか、安心しきった顔で膝の上に頭を乗せてきた無防備な頬を撫でたい衝動を堪えれば、ふにゃりと笑った笑顔に理性が脆くも崩れそうになる。
「……離したくねぇなぁ」
脳内でリフレインするオレの本音と微妙にリンクした曲。思わずやけになって口ずさめば「……新開くん」とナマエが寝ぼけながらオレの名前を呼んだ。
「隼人、だよ」
これから、どのくらい時間がかかるかは未知数だけれど。アルコールでふわふわと揺れる脳内で思い描く未来、ナマエの隣にオレがいたらいいのに、と思った。