君に触れたいクリスマス
環君と恋人になって三ヶ月。見つめ合える記録は着々と更新されてはいるけれど、いまだその距離は遠い。キスなんてとてもじゃなくて、手を繋ぐ事すら困難を極める。環君のペースに合わせて距離が縮めれば良い、とは思っているし長期戦になるのは覚悟していた。
でも、時々どうしようもなく環君の事が好きすぎて一気に距離を詰めたくなってしまう時がある。今もしまった、とは思った。勢いで環君に抱きついたものの、硬直しきっている体に愛しさよりも申し訳なさが募った。
クリスマスの彩られた雰囲気に呑まれた、というのは正直言い訳に過ぎなくて。環君に触れたくてたまらなかった、というのが本音だった。
「ナマエさん、あの……」
「環君、ごめん……もう少しだけ待って」
ピンと尖った環君の耳は真っ赤。鋭い目つきが泣きそうに緩んで、ぐっと引き締めた唇が「わかった」と動く。思わず正面から見上げてしまえば、逸らされる視線。彼の吐き出す白い吐息が夕暮れに溶けていく。
「ごめん。プレゼントが嬉しくて思わず抱きついちゃった」
「俺なんかが選んだけど……嫌じゃなかった?」
「嫌なわけないよ。すごく嬉しい」
環君からのクリスマスプレゼントはふわふわのマフラー。柔らかくて気持ち良くて、優しい手で首元に巻かれたら嬉しくて泣きたくなってしまって。
女の子に人気の雑貨屋の紙袋に、環君がどんな顔して買物したのかを考えると胸がぎゅっと暖かくなる。
『俺なんかを好きになってくれて、ありがとう』なんて、優しく笑われたら、大好きな気持ちが溢れて止まらなくなった。
ぎゅっと両手で抱きつけば、環君の両手が居場所をなくしてオロオロするのはわかっていても。ごめん、嬉しすぎて、好きすぎて今は離れたくなかった。
「……ナマエさんが喜んでくれて、嬉しい」
「うん。すごく嬉しいよ」
環君の制服に頬を押し当てて、鼓動に耳を傾ける。同じ雄英高校の制服を着ていられるのも、あともう少し。制服で出かけるクリスマスデートは今年しか出来ない。
「手袋と迷ったんだけど、でも、その……」
頭上で口籠る環君の声はどんどん小さくなる。見上げれば、今度は視線を逸らされなかった。
「手、繋いでイルミネーション見たかったから」
必死に絞り出した環君の真剣な声。戸惑いながら繋いでくれた手は冷たくて震えていたけれど、クリスマスに勇気を振り絞って一歩近づいてくれる彼は、私にとって最高のヒーローだ。