大切にしたいと自分に言いきかせる高校生の巻島


 付き合い初めて知ったのは、彼女が無防備だと言うこと。無意識で翻弄してくる小悪魔がいかに恐ろしいかということ。「巻島君、かっこいい」「大好き」不意打ちで愛をぶちまけてくる奔放さも最初は度肝を抜かれたが、それがミョウジの愛情表現だとわかってからは「そりゃ、どーも」と返せる程度には慣れてきたつもりだった。
 けれど、今日のような状況は想定外で。安心しきった寝顔を前に、見えない何かといつまで戦えばいいのだろうかとため息がこぼれた。

 「……おまえ、それは反則ショ」

 学校帰り、ロードレースをもっと知りたいと言うからミョウジを家につれてきた。家に連れてきたのは初めてで豪邸だの、坊ちゃまだったんだねだのと大騒ぎをするミョウジをなだめて座らせて、飲物を用意するから大人しくしていろと言ったのが数分前。どうして、たった数分で人の枕を抱えてベッドで寝られるのか。無防備にスカートが捲れそうな体勢で眠りこける姿に呆れてしまう。
 
「彼氏の家で無防備すぎるだろ。何されても……文句言えないショ」
 
 グラスを乗せたトレイを机に置き、わざとベッドに勢いよく座る。びっくりして飛び起きるだろうと思えば、寝ぼけているのか枕を離したミョウジが今度は膝にしがみついてくる。
 
「オイオイ、冗談キツイって」

 太腿に頬擦りをしそうなミョウジにため息をつく。スカートから覗く白い足が眩しくて慌てて視線を逸らし、ブレザーを脱いでミョウジの足元へ掛ける。逃げるようにベッドから降りれば、ミョウジは素知らぬ顔で小さく唇を開く。無防備な寝顔に苛立ちを覚えつつ、唇を重ねたくなる衝動を堪えて、彼女の前髪を指先で弾いた。柔らかい髪は軽く指に巻き付けても、するりと逃げていく。
 
「……やっぱ、初めては大事にしたいショ」

 口付けたい気持ちを堪えて呟けば、人の苦労など知らないミョウジが幸せな夢を見ているのか、ヘラリと笑った。髪を撫ぜてやれば、気の抜けた眉が下がって普段よりも幼い印象になる。

「ナマエ」

 普段ならば名前では呼ばない。まだ、呼ぶことに慣れていない。

「……オレもナマエの事、大好きショ」

 もしも小悪魔が寝たふりをしていたのなら飛び起きると予測して、耳元でらしくなく囁いてみれば、またふにゃりとミョウジが笑う。髪を撫ぜる手にすり寄るように顔を動かすミョウジの寝ぼけた声はとろけるように甘かった。
 
「裕介……私も大好き」
「……おまえ、本当にそれは反則ショ」

 緩んだ顔をして眠る小悪魔を叩き起こせるわけもなく、赤くなった顔を必死に取り繕うとすれば耳に甘く残った『裕介』の響きが本能を強く刺激する。とりあえず、ミョウジが眠る幸せな夢から目覚めたのなら『巻島君』と呼ばれる事は、もう終わりにしようと決意した。
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