私のどこが好き?ver黒田

 オレの彼女は時々、突拍子もない事を聞いてくる。思いついたことがすぐに口から出るタイプというか、深く物事を考えていないというか。そういうミョウジの浅はかな所が可愛くもあり、普段オレが振り回される所でもある。だから、そんなに驚かなかった。

「黒田君は私のどこが好き?」

 なんて、どこか期待した顔で突然聞いてきたことも。

 「なんでそんなこと聞くんだ?」

 どうせドラマの影響か、友達との会話がきっかけか。思いつきで聞いてくる話題にしては学校の敷地内という微妙な場所。大方、友達と彼氏の話で盛り上がって気になったんだろうと思いながら一応理由を聞いてやる。

「なんでって、聞いてみたいなって思ったから」
 
 きょとんとした顔で深い意味はないけど、とミョウジが口ごもる。ゴニョゴニョと言葉を濁しながら、出てきた答えは結局「彼氏は自分のどこを好きか」という話題を弁当食いながら友達とした、というミョウジらしい理由だった。
 
「どこが、って言われてもなぁ」
 
 首をかしげながら、わざとらしく考えるふりをすれば視線の端でミョウジがソワソワと落ち着かない様子を見せる。上目遣いに見上げるちょっと不安そうな瞳に、にやつきたい気持ちを抑えながらミョウジの反応を伺う。改めて、どこが好きなのかしみじみと考えてみれば自然と言葉が溢れてくる。
 
「何にでも必死な所、とか」
 
 そういえば、告白してきた時も必死な顔していたなぁなんて、一人で思いだし笑いをしてミョウジの頬を指でつつく。耳まで赤くなっ反応が可愛くて、更に顔がにやつくのを堪えながら、もっと意地悪をしたくなる。
 
「あと、そうやって表情がよく変わるところ」
 
 頬をつついて、赤くなった耳に触れて、もういいってミョウジが逃げようとする手を繋ぐ。綺麗に磨かれた指先を擦れば、休日デートの度に色が変わる小さな爪を思い出して口元が緩む。綺麗に塗れた、黒田君はこの色は好き?といちいちオレに聞いてくる面倒くさい所も愛しかった。
 
「でも一番好きなのは、オレの事が大好きなところ」
「黒田君、意地悪」
「聞いてきたのはそっちだし」
 
 仲良く手を繋ぎながら、口を尖らせて拗ねたような顔をしたミョウジが可愛い。手を振り払って背中を向けたミョウジを背後から抱きしめて、首筋に顔を埋めれば柔らかい髪が鼻先で揺れる。

「くすぐったい」
「いいじゃん、別に。そういう反応すげー可愛い」

  耳も項も赤く染まったミョウジの反応に満足して体を離す。何となく人の気配を感じて不意に振り返れば、後方には葦木場を筆頭とした自転車競技部の部員。
 頭を抱えて目を逸らす泉田と、ニコニコしながらオレを指差しながら手を振ってくる葦木場とばっちり目が合う。背後に立つ銅橋は顔を引きつらせて、完全に視線を逸らしていた。
 
「ユキちゃん、幸せそうだねぇ」
「……ユキ、頼むから場所を考えてそういうことはやってくれ」

 こういう時、ミョウジの反応は素早い。するりと腕の中から抜け出すと「黒田君、またね」と真っ赤な顔を伏せて脱兎の如く逃げていく。運動苦手なくせに、こういう時だけ速いのはなんなんだ。

「あーあ、ミョウジさん逃げちゃった」
 
 部室へと続く一本道。ニコニコ笑う葦木場に追いつかれて、肩を叩かれれば時すでに遅し。真っ赤になった顔は隠しきれず、泉田と銅橋から生温い視線を注がれても逃げ場はない。

「ユキちゃんとミョウジさん、仲良しだよねぇ」
「うるせー、もうお前黙ってろ」

  真っ赤になった顔を押さえながら、調子に乗った自分が悪かったと後悔しても、今更どうにもならない。ほんの一瞬、調子に乗ったオレが全部悪い。まるで世界にふたりきりのような気がしたけれど、ここはいつもの学校だったのだから。
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