私のどこが好き?ver今泉


 今泉君の好きなところは背が高くて、かっこいいところ。努力家で負けず嫌いなところ。クールなのにロードレースの事になると熱いところ。あんまり表情に出ないけれど、優しいところ。それから、照れると視線を逸らして無口になるところ。今泉君の好きなところを上げ始めたら止まらなくて、好きが溢れて止まらない。

「あかん、もうええ。お腹いっぱいや。ミョウジさんがスカシの事が大好きっちゅう事がようわかったわ」

 隣の席の鳴子君が、あのスカシのどこに惚れたんか?って聞いてきたから答えたのに、うんざりした顔で言葉を遮る。
 
「だって、どこが好きなのかって鳴子君が聞いてきたから」
「聞いたワイが悪かった」
 
 今泉君とは付き合って2ヶ月。まだまだぎこちなくて、スマホでおはようとか、おやすみとかたわいもないメールをするのが精一杯。それでも嬉しくて、毎日が楽しい。

「でも、今泉君は私のどこが好きなのかなぁ」
「そりゃー、ミョウジさん、スカシに自分で聞けや。ワイは聞く勇気ない。今みたいにポンポン好きなところ言われたら聞いてるこっちが痒くなる」

 痒いと言いたげに両腕を擦りながら、鳴子君は背中を震わせる。わざとらしい鳴子君の態度に笑いながら、ちょっと楽しそうな未来を想像したのがいけなかったのかもしれない。きっと、今泉君もちょっと照れながら何かしら答えてくれて、私は幸せな気持ちになれるんだろうなんて勝手にワクワクしてしまったのだから。

「今泉君は私のどこが好き?」

 だから、その日の帰り道。たまたまテスト前で自転車競技部も部活が休みだったので、今泉君と一緒に帰った。鳴子君との会話を思い出して深く考えず、口にしてから後悔をした。
 
「は?」
「……え?」

 何気なく投げた言葉に今泉君の動きが止まる。急に声のトーンも低くなるし、顔からは笑みが消えて。予想していなかった反応に、浮かれていた自分が恥ずかしくなる。

「あの、ちょっと急に聞いてみたくなったっていうか」
「あぁ」

 ぎこちなく笑って誤魔化そうとすれば、今泉君からは曖昧な返事。それ以上、会話が続かなくて泣きたくなった。困惑したような顔で口元を引き攣らせて、今泉君は押し黙ってしまう。そんな彼の姿を見て、必死に誤魔化そうとすれば自分の顔も引き攣っているような気がした。
 
「……ごめん、変なこと言って。気にしないで」
「いや、そういう訳じゃ」
「あ、そういえば最近購買で新しく売ってるパンって今泉君はもう食べた?」

 何か話題を変えないと場が持たないと思って、慌てて購買の新作パンの話をする。チーズがたくさん乗ってるソーセージパン。女子の間では高カロリーだけど美味しいから悪魔パンなんて呼ばれているとか、絶対に今泉君は興味がないと思う。引き攣ったままの口元を見ながら、もう自分でも何がしたいのかよく分からなくなった。

「それでね、この前食べたんだけどやっぱり美味しくって。三年生の田所先輩って、今泉君の部活の先輩だよね?田所先輩はすごいんだよ、あのパン4個食べても全然足りないんだって。購買のおばちゃんがびっくりしてた!」

 笑って誤魔化そうと取り繕えば、今泉君は困惑した顔にどんどんなっていって。余計な事を言った事をひどく後悔する。軽率にどこが好き?なんて聞かなければ良かった。今泉君を困らせてしまった事が悔しくて。好きなところを答えてもらえなかった事が悲しくて。ちょっと照れながら教えてくれるなんて夢を見てた自分が恥ずかしかった。

「ミョウジ」

 少し歩調を早めて、今泉君の前を歩く。俯いたら泣いてしまいそうで、空元気な話題を喋り続けながら前を向けば、背後で今泉君が困ったような声を上げた。

「なぁに、今泉くん」
「……ごめん、うまく言えない」

 謝られた。大好きな今泉君に申し訳なさそうな顔をして、謝られた。その事実が思った以上にダメージで振り返った瞬間、笑おうとしたのに泣きたくなってしまった。

「そうじゃなくて……だから」

 言い淀んだ今泉くんは眉間に皺を寄せて、私の顔を見つめると小さくため息を吐く。面倒くさい女だと思われたのかな、と視線を伏せれば急に体が引き寄せられる。一瞬、何が起きたのかわからなくて呆然とすれば、今泉君の腕の中にいるのだとわかった。背の高い今泉君の胸元に顔が押し付けられていて。少し早い鼓動は私と今泉君のどちらの音だろう。

「今泉君!?」

 抱きしめられている事実に困惑して、ロボットみたいなぎこちなさのままゆっくり顔を上げたら、真っ赤な顔をした今泉君と視線がぶつかる。見るな、っていうみたいにすかさず大きな手が私の頭を抱え込む。高鳴る心臓の音が、言葉よりも悠然と好きだと言ってくれているような気がして、胸がぎゅっと苦しくなった。今泉君は何も言わない。だけど、初めて閉じ込められた今泉君の腕の中は温かくて、泣きたくなるほど幸せな場所だった。しあわせなぬくもりに包まれながら目を閉じれば、欲しかった言葉は貰えなかったけれど心の中がポカポカと温かくなる。
 ただ、問題はただ一つ。抱きしめてくれた今泉君も動揺したのか、なかなか手を離してくれなくて。自転車競技部の部長、金城さんが通りかかって「今泉、お前こんなところでを何やってる」と冷静に声をかけてくれるまで離れるきっかけが見つからなかったこと。
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