可愛い鏑木と年上彼女の初キス

 付き合う前から2つ年上のミョウジ先輩にいつも「一差は可愛いね」って言われていて。優しい顔で笑って、柔らかい手で髪に触れられるのが好きだった。わざと英語のプリントが終わらないから助けてくださいとか、お腹が減って動けません、なんて調子に乗ってミョウジ先輩に甘えていた自分が悪いとも思う。けれど、高1と高3だとどんなに好きでも一緒の学校生活を過ごせる時間は限られていたから意を決して好きです、と伝えたのが1ヶ月前。ミョウジ先輩は今まで見たこともないほど照れた顔をして「私もだよ」って言ってくれた日から恋人になった。だから、きっと今までよりも特別な関係になったはずなのに、なぜかあまり変わった気がしないのはどうしてだろう。

「一差、どうしたの?お腹痛い?」
「違います」

 お昼を一緒に食べたいと意を決してミョウジ先輩を誘ったら、約束した日にまさかの手作りお弁当付き。美味しくなかったらごめんね、なんて謝られたけど美味しくないはずがない。ハンバーグとかタコさんウインナー、卵焼きはハートの形とか、もう嬉しくて半泣きで食べた。食べ終わって、マジでうまかったです!と伝えたらミョウジ先輩の頬がほんのり赤くなって、とてつもなく可愛い。目尻を下げて「嬉しい」って笑った顔を見たら抱きしめたくてたまらなくなる。
 ドキドキしながら今ならいける、と思ってミョウジ先輩を抱きしめたら、なぜかこの反応。え、お腹痛いとかなんで思ったの?甘やかすみたいに背中をポンポンされて、そうじゃないのにと思いながらも本能には抗えなくてミョウジ先輩の肩に額をくっつける。頬に触れた髪をくすぐったいって笑う声も可愛い。

「一差はほんと、可愛いね」

 あんなに嬉しかった可愛いという言葉が胸にちくりと刺さる。可愛いのはオレじゃなくて、あんただよと言いたいのに言葉が出てこない。余裕がないのはオレばっかりで先輩はズルい。

「ミョウジ先輩、オレのことちゃんと彼氏だって思ってます?弟じゃないですよ?」
「弟なんて思ったこと、1回もないけど」

 ぎゅっと抱きしめた腕を緩めると、腕の中で先輩が困ったように笑う。柔らかい両手がオレの頬を包み込んで、ほんの一瞬だけ唇に触れた柔らかい感触。

「へ?」
「弟にはこういう事、したいと思わないよ?」

 キスと呼ぶには短すぎる、ほんの一瞬。掠ったぐらいのキスなのに顔が火照って声が出ない。今、何が起こったのかわからなくて、確かめるように顔を寄せればミョウジ先輩は、ぎゅっとオレの胸に抱きついた。

「ミョウジ先輩、今のもう1回してもらってもいいですか!?今度はもう少し長めに……!」
「恥ずかしいから無理」
「じゃあ、せめて顔見せて!夢じゃないって確認させて!」
「嫌」

 いつもよりも頑固な態度の先輩をなんとか引き剥がして顔を覗き込めば、真っ赤になって視線を逸らせる照れた顔。マジでなんなの、この人。可愛すぎてオレが死ぬ。

「……名前で呼んでくれないなら、嫌」

 ちょっと拗ねた声にくらりと眩暈がするほど胸が締め付けられる。いつもは大人びて見えるミョウジ先輩が子供みたいに見えて、関係性を変えたかったのはオレだけじゃなかったと気づく。とりあえず混乱した脳内でミョウジ先輩の名前を馬鹿みたいに繰り返しながら、初めての恋人も初めてのキスも、この人で良かったって思った。

「オレ、ナマエさんのことマジで大事にします!」

 もう1回、キスして欲しい。そう思って、顔を覗き込んだら彼女の指が口元に触れて、顔から火が出そう。

「一差、おにぎりのごはん粒ついてる」
「今、その情報いりました?」

 オレ、今結構大事なこと言ったと思うけど……と言い返せば、オレを翻弄する指先がご飯粒をとってくれた瞬間、二度目のキスが唇に触れた。今度は二秒。全然足りない、もっと欲しいとねだれば「今日はもうダメ」と困ったようにナマエさんが笑ってオレの胸に顔を隠したのが最高に可愛くて、身悶えしそうだった。
 当たり前だけど、オレはその後、午後の授業の内容は本当に何1つ覚えていないし、頭には入っていない。とりあえずこの日、オレが覚えた事といえば、好きな人とのキスはヤバいぐらい幸せで、ふわふわして気持ちの良いものだってこと。
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