高校生東堂が恋人宣言してくれる

 東堂君は太陽みたいな人で、いつだって人に囲まれている。特に女の子からは絶大な人気で、ロードレースの応援には手作り団扇が並び、声援に応えるように指差しをすれば悲鳴が上がる。
 クラスで遊ぼうって話になれば、東堂君を中心に話が進んで、夏休みなのにクラスの半分が遊園地に集まった。
 東堂君と付き合って三ヶ月。いまだ、周りに言い出す勇気はなくて、私達の関係は誰も知らない。クラスの人気者……むしろ、箱根学園の人気者な彼と付き合っているのが私みたいな凡人だとわかったら周りはどう思うのかが怖かった。
 東堂君は付き合おうと言ってくれた時、周りに隠す気は全くなかった。秘密にしたいと言ったのは私の方だったのに、自分から言い出した後悔が胸に突き刺さる。
 ジェットコースター系の乗り物も東堂君の隣は女子の争奪戦だし、お化け屋敷に至ってはペアが決まらなくて、さりげなく東堂君が男子の群れに逃げ込むのを見た。本当は隣にいたくて、一緒にいたいのに。
 日差しにジリジリと焼かれながら、白いシャツで笑う東堂君を見つめれば、不意に目が合ってウインクされる。思わず顔を背ければ、サッカー部のクラスメイトと目が合った。背の高い彼が日差しを遮るように前に立つ。ふわり、と揺れた足元は掴まれた腕のおかげで倒れずにすんだ。
 
「ミョウジ、大丈夫?体調悪い?」
「ごめん、ちょっと暑くて……」
「気分悪いなら、どこか涼しい所に行った方がいいんじゃねぇ?」
「うん。ちょっと休憩しようかな」
 
 クラスのお祭り騒ぎな雰囲気は好き。いつもなら当たり前に楽しめるのに今日はなんだか切なくなる。ついて行こうか、と心配そうに肩に手が触れた瞬間、自分の体が後方へひかれた。

「ミョウジ、体調が悪いのか」
「……東堂君」
 
 さっきまでみんなに囲まれてニコニコと満面の笑顔を浮かべていた東堂君の眉間に皺が寄る。音もなく駆け寄ってきた東堂君が私を引き寄せたのを見て、心配して声をかけてくれたクラスメイトは上げた手の行き場を無くす。困惑した顔で差し出してくれた手で頭を掻きながら、私と東堂君を見比べていた。
 
「なんかさ、フラフラして調子悪そうだなって思ったんだけど」
「そうか。気づいてやれなくて悪かった」
「え?なんで東堂が謝んの。っていうか、ミョウジマジで顔色悪くね?」
 
 顔を覗き込まれて、そんな事ないよ、と口を開こうとした瞬間。ぎゅっと繋がれた右手を東堂君が引き寄せた。ナマエちゃん、どうしたのと駆け寄ってきた女の子達も東堂君に繋がれた私の手を見てびっくりしている。気がつけクラスメイトに囲まれていて、慌てて東堂君の手を振り払おうとすれば、強い力で繋ぎ直された。
 
「悪いが、オレ達はここで解散させて欲しい」
 
 凛とした良く通る東堂君の声に頭の中が真っ白になる。周りのクラスメイトもびっくりしていた。なんで、とか急にどうした、とか聞こえてくる声に泣きそうになる。頭が痛くて、足元がフラフラする。あれ、これ本格的に調子が悪いかも、と思った時には周りから差し出された冷えたペットボトルや日傘。顔を上げれば心配そうなクラスメイトと優しく笑う東堂君がいた。
 
「ミョウジ、そんなに心配しなくても大丈夫だ」
 
 真夏なのに、東堂君は涼しい顔。頬に伸ばされた手が優しく、冷たいペットボトルで首元を冷やしてくれる。呆然とする私の手を繋ぎ直すと東堂君はクラスメイトに満面の笑顔で微笑む。
 
「実は3ヶ月前からミョウジと付き合っている。他の男に任せるわけにはいかんのでな。ここは譲ってくれ」
 
 思わず見惚れるほどの満面の笑顔。ポカンと口を開けたクラスメイト達を見渡すと、東堂君は行こう、と私の手を引く。何が起きているのかわからなくて呆然としたまま東堂君に手を引かれて歩く。クラクラする様な真夏の太陽と東堂君の爆弾発言に頭の中はもう真っ白だった。

「ミョウジ、大丈夫か」
 
 一番近いフードコートの片隅で凍ったお茶のペットボトルを首筋に当ててもらいながら机に伏せる。東堂君は売店で買った子供向けのキャラクターが付いた団扇で優しく風をおくってくれていた。
 貧血か、熱中症か、寝不足か、それとも低血糖か、なんて慌てふためきながらフードコートに駆け込むと東堂君は手早く色々と買い込んでくれて、目の前には冷たいアイスクリームもあった。テーブルに置いた携帯が何度も光ってメッセージを知らせるのを横目で見ながら、心配そうな東堂君の顔をぼんやりと眺めた。整った綺麗な顔がどんどん近づいてきて、顔を上げた時には額と額がコツンと優しく触れていた。
 
「すまなかった」
「……何が?」
「ミョウジが調子悪い事、一番に気付いてやれなかった」
 
 右手には団扇、空いた左手で優しく背中をさすられると独り占めしている事実に申し訳なくなってしまう。
 
「みんなの所、戻ってもいいよ?」
 
 せっかく楽しかったのにごめん、とやんわりと東堂君を押し返す。自分でも素直じゃないなぁ、とため息をつけば、不意に東堂君の両手が私の頬を包んだ。
 
「それ、本気で言っているのか」
 
 慌てて目を逸らせば、不満そうな顔をした東堂君が無理やり視界に入ってくる。穏やかな東堂君の眉間に皺が寄っていて、自分の失言に口を閉ざす。
 
「付き合っていると言ったのも迷惑か?」

 そうじゃない、と首を横に振る。本当は嬉しかった。駆けつけてくれた事も、みんなの前で宣言してくれた事も。
 
「……本当は東堂君の隣、譲りたくなかったの。付き合ってる事、隠してたの自分だったのに」
「ミョウジが隠したかったのは知っている。だが、オレも譲りたくなかったからな。それに、元々今日はみんなの前で付き合っている事は言おうと思っていた」

 東堂君は半分溶けかけたアイスクリームを掬って、私の口元へ運ぶ。釣られて口を開けば甘いバニラアイスが美味しかった。

「観覧車。どうせなら堂々と2人で乗りたいと思っていたからな」

 少し照れた様に笑う東堂君の言葉に思わず涙目で頷く。溶けるまでに早く食べろ、と押し付けられたアイスクリームに手を伸ばす。不意に光り続ける携帯へ手を伸ばせば、クラスメイトからの大量のお祝いメッセージ。驚いて顔を上げれば、東堂君も自分の携帯を開いてニコニコと笑っていた。
 
「うちのクラスは良いクラスだな」
「……落ち着いたら、みんなに合流しても良いかなぁ」
 
 勝手に怖がって、モヤモヤしてしまった気持ちが申し訳なくて。ぽつりと呟けば、東堂君は満面の笑顔で頷くと私の手をぎゅっと繋いで指を絡める。
 
「その時は堂々と手を繋いでもいいか?」
 
 本当はずっとこうしたかった、と微笑まれて泣かない女の子はいないんじゃないかなと思いながら、眩しい東堂君の笑顔を見つめる。彼に相応しい彼女でいられる様に、もっと色んな事を頑張ろうと思った事は胸の奥にしまっておこう。
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