小説 | ナノ
背伸びをしても届かない恋。







『総司。』
「何ですか?」
『いつまでここに居るつもりだ?』
「それは僕の気分次第ですよ」
『………あのなぁ』
「僕がここに居たら都合が悪い事でもあるんですか?」
『そ、そんなもん。ある訳ねぇだろ!』
「なら、問題ないですよね?」
『……………勝手にしろっ』







知ってるんだ。
貴方が必死で僕を追い出そうとする理由を。
ほら。ぱたぱたと廊下を駆ける君の足音が聞こえてくる。










「土方さん!お茶をお持ちしました………っ、沖田さんもいらっしゃったんですね。すみません」
『こいつの事は気にするな。それより千鶴、茶ありがとうな』
「いえ、これくらいしか私は土方さんのお役に立てないので…」
『何言ってる。お前は”誰か”と違って充分役に立ってるぞ』
「土方さん……その”誰か”って、もしかして僕の事を言ってるんですか?」
『なんだ、察しがいいじゃねぇか』
「心外だな。それ」
『そう思うならだらだら人の部屋に入り浸らねぇで、進んで巡察にでも行きやがれ』
「それは聞けない頼みですね」
『……ったく。総司には頭が痛ぇな。あぁ、そういえば。総司のお陰で忘れるところだったが……千鶴』
「は、はい。何ですか?」
『松本先生に調合して貰った薬だ。今朝、勝手場で火傷しただろ?跡が残ると大変だから塗っておけ』






どうしてそれを…と、言いたげに目を瞬かせた君は、土方さんの手から小さな薬箱を受け取ると、頬を赤らめ「ありがとうございます」と華のような笑顔を見せた。
その笑顔に、僕ははっとした。





鬼と言われるくらい厳しい人だけど、それも皆の為と自ら憎まれ役になる。
そうやって考えてるのは何時だって自分ではない誰かの事。
君も、そんな土方さんに惹かれているんだね。







背伸びをしても届かない






本当は………とうに知っていたんだ。
僕と土方さんじゃ度量が違い過ぎるって。
だけど悔しいから。
僕の大事な人、愛する人が皆みんな土方さんに奪われちゃうのは。
だから少しだけ。
貴方の邪魔したっていいでしょ?
ね、土方さん。






「土方さん。今、彼女の事、千鶴って呼び捨てにしてませんでした?」
『なっ!き、気のせいだろ』
「そ、そうです。気のせいですよ、沖田さん!!」
「何で二人してそんなに慌てふためいてるんですか?」





いつか、貴方を超えるその日までは………






2011.06.01 薄恋 様に提出


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