小説 | ナノ



沖田さんの小姓になって数日…
彼は以前に比べ、床に伏せる時間が増えた。
それに比例するように、塞ぎ込む回数も日に日に増えていくようになった。













「沖田さん」

『…』


部屋の前から室内へと呼び掛けるも、応じる声はない。
もしかしたら寝ているのかも。
そう思った私は音を立てぬよう、僅かに襖を開けた。
しかし予想に反し、隙間から覗くのはうなだれるように半身を起こした沖田さんの姿。
了承を得てはいない。
しかし体調が芳しくないのかもと不安になり、思い切って襖を開け、図々しいとは思いつつ室内へと踏み込む。


「沖田さん?」

『…』

「あの、体調が悪かったら遠慮なく言って下さいね?」

『…』


一向に返事を貰えないまま、静々と布団の近くに腰を下ろす。



「何か欲しいものでもあればお持ちしますよ?あ!甘い物はいかがですか?疲れも和らぎますし!」

『…』




沈黙が部屋を埋め、さてどうしたものかと必死に思案を巡らせ始めた矢先、『ねぇ』と酷く弱々しい声で呼び掛けられた。




「はい。何でしょうか?」

『……が欲しい』

「えっ?何ですか?」




ずいっ、と沖田さんの方に身を乗り出すと同時、私の身体は沖田さんの腕の中に収まっていた。




「あ、あのっ!沖田さん!?」

『何か欲しいものがあれば、って言ったのは千鶴ちゃんだよ?僕は千鶴ちゃんが欲しいんだけど』



にっこりと何時もと変わらぬ意地悪な笑みを見せると、彼は私をそっと布団へ押し倒し私に覆いかぶさると、ゆっくりと綺麗な顔を近づける。



「お、沖田さんっ!!!」

『何?』

「いくら何でも悪ふざけの度を超えてます!」

『悪ふざけねぇ。じゃあ君はさ僕が本気だって言ったら、大人しく全てを僕に委ねてくれるの?』

「そ、れは……」




突然の問いに思わず言葉を詰まらせると、彼は興味を失ったと言わんばかりに私から離れ、


『そうだよね。何時この世から居なくなるかもしれない男は嫌だよね』


私に背を向け、自嘲気味に呟いた。
口調は何時もと変わらない。
けれどその肩は、にわかに震えていたのを私は見逃さなかった。


どうしたら彼に私の想いは伝わるんだろう。
きっと今はどんな綺麗な言葉を並べ立てたって、彼には同情にしか聞こえないだろう。
だったら、私に思い付くのは…………。









「沖田さん、こっち向いて下さい」

『…嫌だよ』

「じゃあいいです。私が移動しますから」

『なにそ、…っ』

「……」









言葉じゃ伝わらない。
それなら重ねた合わせた口唇から私の想いが流れて、沖田さんの身体に溶け込んでくれないか、と。
夢中で口唇を重ねていた。









『は、ぁ……千鶴ちゃん。ちょっと、待って…』



ほんの少し、離れた口唇の間から彼は私の名前を呼んだ。
そして温かい掌で私の頬を優しく包むと、翡翠色の瞳でこちらを見据え、ぽつりぽつりと小さく語りだした。








『……僕はさ、今まで沢山の修羅場を潜って来たけど、死ぬ事なんて少しも怖くなかったんだ。でも今は。どうしてなんだろう。とてつもなく死ぬのが怖くて……堪らないんだ……』




自身の心情を吐露した彼は、先程よりも更に震えながらも、きつく私を抱きしめるから、私も彼を思い切り抱きしめ返した。







『ごめん。こんな弱気、僕らしくないね?』

「そんな事ないです」

『ありがとう。君には、いつも救われてる気がするよ』

「私なんかで沖田さんのお役に立てるなら、何だってしますから」

『君ってさ、時々凄く大胆だよね。さっきといい……』

「それは…その……」

『千鶴、大好きだよ』

「えっ!?い、いきなり何ですか?」

『そんなに驚くことないでしょ?僕も君に習って素直になっただけなのに』






こつん、と彼がおでこを合わせ、視線が絡み合うと、どちらからともなく口唇を寄せ、そのまま二人で布団の上へと倒れこんだ。














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