小説 | ナノ
『あ〜あ。退屈だなぁ』
温かな布団の中でごろごろと寝返りをうち、独り呟く。
本当に今日は調子が良いのに、先刻、心配性な彼女にお灸を据えられた。
まあ、心配かける事ばかりしている僕が悪いのかも知れない。
だから今、反省の意を込めてこうして大人しく部屋に篭っているんだけど。
『誰もお見舞いに来ないとか、薄情だよね』
隊務もこなせない僕なんて、存在価値すらない、とか?
一人で部屋に居ると暗い思考ばかりが頭を巡る、だから嫌なんだ。
『僕は……居ない方がいいのかなぁ』
「そんな訳ねぇだろ」
『えっ?』
誰に問うた訳でもないのに返答する不機嫌な声色。
部屋の主の了解も得ないまま、その人物は乱暴に襖を開けた。
「おまえは、この新選組に必要な人間だ。余計なことに頭悩ませる暇があったら、病を良くする方法を考えろ」
眉間に深い縦皺を刻みながら彼は僕の傍に腰を据える。
『土方さん。何時から盗み聞きが趣味になったんですか?』
「見舞いに来てやったら、勝手に呟いてたのが聞こえただけだ」
『うわっ!下手な言い訳』
「うるせぇ。これでも食って寝てろ」
そういって、無造作に包みを僕に寄越す。
『これ…は?』
「金平糖だ。そこの店のは美味いって評判だからな。食ってみろ」
促されるまま、星屑のような小さな粒を口に運ぶ。
『…美味しい』
「だろ?
…そんじゃ、それ食ったら横になってろ。昼飯が終わったら誰か話し相手にでも寄越してやる」
じゃあな、と立ち上がった土方さんに僕は慌てて声を掛けた。
『土方さん!一つ、頼みがあるんですけど』
−−‥昼飯時
「あの、沖田さん」
『どうぞ』
すっ、と開いた襖の先。
戸惑いの表情をした彼女がそこに居た。
『何?僕に呼び付けられるのは不満?』
「い、いえっ!そういう事では…」
『じゃあ何でそんな顔してるの?』
「あの、どうして私を沖田さんの小姓にしたんですか?」
『あぁ、それね』
−−千鶴ちゃん。君を独り占めしたいからに決まってるでしょ?
『教えてあげない』
「えぇっ!?」
僕、我が儘になったみたいだ。
君のせいで、ね。
続