小説 | ナノ





「今年もまた曇り、かぁ」


曇天の下、私は洗濯したばかりの皆の隊服を干しながら小さくため息を漏らした。


『なんだ。曇りだとなんか都合が悪いのか?』
「っ…!土方さん、何時からそこに」
『部屋に戻ろうとたまたま通りがかっただけだ。で、何暗い顔してやがんだ?』




話の続きを促すように土方さんは縁側に静かに腰を下ろす。
私も洗濯をする手を止め、その隣に腰を下ろした。



「土方さん、今日は何の日だか知ってますか?」
『今日?何か特別な日か?』
「今日は七夕なんです」
『ああ……言われてみればもうそんな季節か』
「それなのに曇りですよね」
『成る程。千鶴のため息の原因はそれか』



全てを理解した、と言うように土方さんは小さく微笑んだ。



『千鶴が残念に思う気持ちも判らなくはないが、引き離されたのは自分達の行いのせいだってのは知ってたか?』
「えっ?」
『織姫は織物を織るのが上手な働き者の娘、彦星は牛飼いだったんだが…。結婚を機に二人とも仕事に身が入らなくなっちまったそうだ。それを怒った織姫の母親が、二人を天の川の東西に引き離したって言う逸話だ』
「そ、そうなんですか?私、知りませんでした」
『ま、雨だと天の川の水かさが増して橋が掛けられないだろうけど、曇りだったらなんとか二人も逢えてるだろうよ』




そう言いながら、土方さんが空を見上げると、湿気を孕んだ生暖かい風が私達の髪を微かに揺らした。




『しかし、よく一年に一度なんて我慢が出来るよな。俺なら好いた女に逢えない日々なんて、気が狂いそうだがな……』
「……土方さん、好きな人が居るんですか?」
『さぁて。どうだろうな』





意味深な言葉を残しながら、土方さんは立ち上がり、私を残したまま一人部屋へと戻って行った。





「土方さんの好きな人、か………」



それが自分であってほしい、なんて都合が良すぎるだろうけど。
願うだけならと、庭先に飾られた七夕飾りを見据え、私は部屋へ向かった。






























この私の願いは既に叶っていたと知ったのは、翌年の七夕で二人で天の川を眺めている時だった。






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