小説 | ナノ
−−ねぇ。知ってる?
桜の花弁がどうして薄紅なのか。




あれはまだ俺が子供だった頃…
どこもかしこも薄紅色の華が咲き乱れてて、幼心もその華やかで雄大な姿に魅了されていた。


そんな時、隣に立つ友の一人がぽつりと零した。








『どうして?』

答えを求め、俺は友の顔を見遣る。


−−それはね………おまえと同じ、人の骸の上に根を構えて血を喰らっているからだよ!

『!!』

そうして気が付くと俺の首はぎりぎりと締め上げられ、身体は宙に浮いていた。




『な、んで…』

−−何で?それはお前が一番解っているだろう? お前は俺達を見殺しにして、一人幸福そうな顔して安穏と生きてる。
お前は、俺達の犠牲の上、命を繋げて来たんだよ!



必死の抵抗を試み、朦朧とする意識の中で、何とか奴の手に己の爪を立てる。
ほんの一瞬、首を圧迫する力は弱まった。
が、俺の手に被さるように、一つ、また一つと俺を締め上げる手が伸びてくる。




−−皆、お前が憎いんだ。




霞む視界に見えた友の顔。それは紛れもなく−−−…‥




















「‥さん!歳三さん!!」


叫びにも似た声に、はっと意識が宿る。


「……良かった」


目の前の千鶴は潤んだ瞳で俺を見つめていた。
そして俺の頬にそっと掌を寄せた。


『何でそんな顔してんだ?』


今にも零れ落ちそうな雫を指で拭ってやると、遠慮がちに千鶴は口を開いた。


「凄く、うなされていて。苦しそうだったので、まさかと思って……」


話ながら、またじわりと瞳を潤ませる。
余程心配したんだろう。


「具合、大丈夫ですよね?」
『あぁ。身体は何ともない。ただ………夢を見た』
「夢…ですか?」
『そうだ。それも酷い悪夢でな。近藤さんに首を絞められた。』
「…」
『近藤さんだけじゃねぇ。山南さんや源さん、総司に山崎、齋藤…皆俺を怨んでるって』


瞼を閉じれば、鮮明に映し出される


”どうしてお前だけ?”
”お前だけが生きているんだ?”


俺を睨む眼。









『本当に、何で俺は生きてるんだろうな』


仲間の苦悩に気付いてやれず、
何も考えず身勝手に突っ込み、
一番守らなきゃならない人を見殺しにして


どうして俺は……?















「そう思っている内は、きっとわかりませんよ」
『えっ?』
「そんな後ろ向きな歳三さんじゃまた皆さんが夢に出て来て、首を絞めますよ」
『お前な…』
「皆さんは怨んでなんかいません。寧ろ皆さん歳三さんの事が好きでしたよ」
『す、き?』
「はい。それも命を懸けて、です」



それから千鶴は切々と語ってくれた。

俺と共にもう一度刀を、と願っていた山南さんの事

俺の命令で何があっても千鶴を絶対に守ると言った源さん

新選組に俺は必要だ、と普段とは比べものにならない程、饒舌に語る山崎

また新選組の刀になりたい、土方さんにばかり活躍させないと必死に病と闘い続けた総司

自ら羅刹に身を投じた齋藤と平助は、ようやく俺の盾になれると笑い、



そして近藤さんは……



負担ばかりを背負わせた、と俺の身を案じ、
俺を頼むと千鶴に託し、敵に投降したと。







「歳三さんが誰よりも仲間を想って、沢山傷付いてるのも知ってます。だけどそれ以上に、皆さんは歳三さんを心配していましたよ」


千鶴はそれはそれは優しく笑う。
俺はもう一度、瞼を閉じた。






見えるのはさっきとは違う、笑顔の仲間達。
皆、気付くのが遅くて悪かった。




どうして生きているのかじゃなくて、
これからどうやって生きていくのか、
俺は考えていく。千鶴と二人で。
皆の想いを無駄にしないように。












−−ねぇ、知ってる?
桜の花弁がどうして薄紅なのか?


それはね。


沢山の人に好かれて、恥ずかしくて紅くなってるからなんだよ。









に濡れるのように
俺の頬は涙で濡れた








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