「愛してます」

「……」

「愛して、います」

「……」

「……っもう!土方さん!」

恥ずかしさに耐え切れなくなった千鶴が拗ねて勢いよく抱きついてきた。視線を彼女に落とせば、顔は胸に埋めているものの見える耳は真っ赤に染まっている。

「なんだ、もう諦めたのか?」

構って欲しいという千鶴の気持ちは手に取るようにわかって、それを知った上でわざと放置していれば彼女は愛の言葉をぼそりと呟きだした。けれどすぐに羞恥に負けたらしい。

「だって、だって土方さんがいけないんです!せっかく久々に会えたのに、こんなの酷いですよ……」

ぎゅっぎゅ、と細っこい腕で懸命に抱きつく様が可愛い。読んでいた新聞を横に放って千鶴の背中に腕を回せば小さなそれはびくんと震えた。

「ひ、土方さん?」

「ん?なんだ?」

「え…いえ、あの」

急にどうしたんだろう、と千鶴が戸惑っているのは明らかで、土方は意地悪く口角をあげた。

「…構ってほしかったんじゃねえのか?」

「っそ、そ、……それはっ、そうですけど!」

いざ、となるとやっぱりドキドキするもので――。

「ならいいだろ。一晩中構ってやるから拗ねるな」

「拗ねてません!」

声は怒っているけれど、千鶴は頬を赤らめている。こんな風に甘えてくる彼女は貴重で、寂しい思いをさせてしまったのだと改めて思った。仕事は捨てられないし、仕方のないことなのだが……。

「千鶴」

「はい」

なんですか、とさっきまで怒っていたことをけろりと忘れたように名前を呼ばれて千鶴は嬉しそうに返事した。柔らかい髪を撫でつつ頬に指を添えれば、千鶴は恥ずかしそうに目を伏せた。

「あ、あの……どうしたんですか?」

「……お前は、俺が好きか?」

「……っさ、さっきたくさん言ったじゃないですか…」

「聞いてなかった。なあ、ちづ。どうなんだ?」

平気で惚ける土方に、千鶴は不満げに眉根を寄せつつも呟いた。

「大好きですけど……」

「千鶴」

「は、はいっ」

「俺も好きだ」

「――ひじかたさ…」

彼女が目を驚きで見開いて、震えた声で名前を呼ぶ前に……唇を塞ぐ。背中に手を回して、逃がさないように力を込めて抱きしめて。

「好き、だから……捨てるなよ、俺を」

「……す、すて」

「お前に何もしちゃやれねえが……それでも、お前と離れたくねえ」

我侭だ。
分かってる。

「捨てたりなんて、しません。…むしろ私のほうが捨てられるほうですよ?土方さん毎日お疲れになっているのに、私何もできなくて……」

しゅん、と千鶴が項垂れる。馬鹿な女だ、こんなことでお前が悩む必要なんてどこにもないのに。

「お前は……。お前は、俺の元に帰ってきてくれるだろ。俺にはそれだけで十分だ」

「……」

「ま、さっきみてえに甘えてくれりゃもっと可愛いけどな」

かっと彼女の頬が赤らんでいくのを見届けて、熱くなった頬に口付ける。柔らかい肌は跳ね返るように受け止めた。

「千鶴。これからも俺の傍にいろ。絶対に迎えに行く――捨てたりなんかしねえよ」

「……はい。大好きです」

とろん、と幸せを巻き込むような瞳で千鶴が言った。小さな体を雪崩れ込むように抱きしめて、土方はそっと目を閉じた。



欲しいものは、あなただけ。



迎えに行く、というのはプロポーズの予告だったりします。十一万打ありがとうございました!遅くなってすみません!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -