鉢雷 (現代)

携帯のアラームが耳元で跳ねている。あとちょっと、あとちょっと、なんて思い瞼を頑なに下ろしていたけれど、羽音くらい些細だった音は、だんだん大きくなっていて、無視できないくらいになっていた。無意識のうちにアラームを止めようと、音のする方向に手を伸ばし、バンバンとベッドを叩く。けど、指先は柔らかい感触しか掴まず、ますます音が大きくなっていく。

(うー、今、何時だろう?)

まだ、ばらばらの意識の隅っこで、なんとか、目をこじ開けようとするけれど、すぐに体が沈んでいく感覚に溺れそうになる。まるで、水の中に浮いているみたいだ。ゆらゆらとした気持ちよさに負けてしまい-------ゆっくり、眠りに抱かれる。淡い光の向こうで、三郎が笑っていた。



(あ、やばい)

次に気がついた時には、気の遠くなるような時間が経ってしまったような気がして、焦りに何の抵抗もなく目が覚めた。と、ぱちりと開いた目の前に、柔らかく微笑みを浮かべた三郎がいた。まじまじとこちらに向けられる視線に、なんだか、こそばゆいような、気恥ずかしいような感じを覚え、再び、柔らかな毛布の中にもぐりこみたくなった。

「おはよう」
「おはよう…もう起きてたんだ?」

いつから眺められていたのだろう、と遠回しに聞いてみれば、三郎はこっちの意図を見透かしたのか、小さく笑った。

「あぁ。ちょっと前にな、アラームが鳴っただろ」
「起こしてくれればよかったのに」
「あんまり気持ちよさそうに雷蔵が寝てるものだから」

僕のとは少し違う、薄い筋肉のついた腕が僕の方に伸びてきた。毛布がはだけ、隆起した鎖骨が見え、何だか急にドキドキしてしまった。別に、初めて見たわけでもないのだけれど、素肌をさらすのは暗がりが多いからかもしれない。自然と昨晩のことを思い出してしまい、頬に昇る熱に、つい、目を逸らしてしまえば、「雷蔵?」と怪訝そうな声が耳を打つ。慌てて「や、何でもないよ」と断りを入れ、さらに誤魔化すために「夢を見たんだ」と続ければ彼は興味を持ったようで、「どんな?」と尋ねてきた。

「んー、それがよく分からないんだよね。けど、三郎が出てきた気がする」
「そりゃすごい」

疑問を持つのは、今度は僕の番だった。

「すごいって?」
「私もさっきまで夢を見てたんだ。それで、私の夢には雷蔵が出てきた」
「へぇ」

感嘆している僕に向かい合う三郎はいたずらっ子みたいに、きゅっと目を細めた。

「なぁ、知ってるかい? 夢に出てくる人はその人のことを思ってる人って、昔は考えていたって」
「え? その人を思ってるから夢を見るんじゃなくて?」
「あぁ。つまり、君の夢に私が出てきたのは、私が君のことを思ってるからってこと」
「じゃぁ、三郎の夢に僕が出てきたのは、僕が三郎を思ってたからってこと?」

半疑の声音でそう尋ねると、三郎は「違わないだろ」と断言した。はっきりとした言いように反論できず「まぁ、そうだけどさ」としぶしぶ肯定すれば、三郎は「な、そうだろ」と楽しそうに笑いだした。一枚の毛布で共に身体をくるませているせいだろうか、三郎が笑う度に感じる衣擦れがくすぐったくて、いつの間にか僕も笑いだしていた。彼から感じる柔らかな温もりは、僕にとって、まさにライナスの毛布だった。






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