鉢雷

教師が黒板にチョークを刻む音だけが、教室に響いていた。春の陽気を帯びた温かな日差し、お腹いっぱい食べた午後一の授業ともなれば、自然と頭が重くなる。現に、目の前にいるほとんどのクラスメートは体を机に沈没させていた。担当教師によっては叱責が飛ぶのだろうけど、目の前の教師は特に咎めることなく淡々と話を紡いでいく。まぁ、後で自分で取り返せ、ってことなのだろう。

(ふぁぁ、眠いなぁ)

クラスの中では割とまじめに授業を受けている方だと思うけど、この温かさじゃ頭がぼーっとしてくるのは否めなかった。四角四面の単語ですら子守唄に聞こえてくるから不思議だ。意味あった言葉が少しずつ単なる音としか聞こえなくなっていきろうになり、慌てて頭を振り頬を抓る。と、隣の体ががくり、と沈み込んだ。

(あ、三郎も寝ている)

さっきまで舟をこいでいたのは知っていたけれど、限度がきたのだろう。そのまま、片側の頬を机に預けていた。教本を立てて誤魔化しているけれど、狭い室内のことだ。教師にはばれてるだろう。その証拠に教師がちらりと視線を送った。やっぱり、何も言わなかったけど。そよそよと小さな寝息をこぼす彼に自然と唇が緩むのが分かった。

(不思議な感じだなぁ)

これが三郎が模倣した僕の寝顔なのか、それとも素の三郎のそれなのか、検討がつかなかった。自分の寝顔、なんて当然見たことがないし、こっちが観察できるほど眠りこけている姿なんて素顔を執拗に隠す三郎にすれば滅多にないことだった。普段ならば面を見せまいと突っ伏すようにして居眠りするだけに、彼の寝顔は貴重で、ついつい、しつこく眺めてしまう。

(んーどっちなんだろ?)

悶々と考えこんでいるうちにすっかり目は冴えてしまった。終礼の鐘が鳴った瞬間、日向にある雪くれのようにそれまで溶け果てていた三郎の体が、ぴくりと動いた。

「そんなに見られると、照れるな」
「っ、三郎、起きてたの?」
「そりゃ、あんな熱い視線を向けられたらなぁ」






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