竹久々2(現パロ)

これの続き。久々知が男娼。ゆえに、気持ちR-15以上で。

冷え切った指先が思うように動かないのだろう、コートのボタンを外すのに手間取っているようだった。その仕草が躊躇っているようにも見えて、一瞬、錯覚する。恋人同士の情事みたいだ、と。その化粧っけのない顔立ちが余計、そう思わせるのかもしれない。明かりをすでに落としてルームライトだけにしている部屋は薄暗くはっきりはしないけれど、今まで寝た事のある商売女とはどこか違うような気がした。何か罪を犯しているような、むしろ贖罪を乞いたくなるような、そんな気分に陥る。ようやくコートを脱ぐと彼女は俺の方にまっすぐ顔を向けた。出会ったときのように。

「あの、シャワーは」
「え、あ、俺、もう浴びたから」
「そうですか。…借りてもいいですか」

時間を使ってしまうんですけど、と細い声に改めて彼女は娼婦であり自分は客なのだ、と痛感する。「あ、いいよ、入ってきて」と答えれば、柔らかそうな唇が緩んだ。「バスローブ、借ります」と、すらりとした背中がバスルームへと吸い込まれるのを俺は見つめていた。

(うわ、やべぇ)

俺と彼女を隔てる扉が閉まり、変に緊張していたのが解けたのか、どっと疲れがきた。何がやばいのか分からねぇが、その感情だけが頭を巡り、勢いのままベッドに倒れ込む。何も匂いのしないシーツに顔を突っ込んでると、しばらくして、さぁさぁ、と小雨のような水音が耳に届いた。途切れることのない、けれども、か細いシャワーの音に、ゆらゆらと揺さぶられるような心地よさに包まれる。まるで、海の底にいるようだった。温かな重みが瞼に降りてきた。



***

「あ、」

不意に大きくなった揺れに、闇がぱちりと弾けた。見慣れない装飾の天井に、一瞬、自分がどこにいるのか忘れた。肩にある小さな重みに意識を向ければ白い手があって、そこをさらに辿ると、あやふやな面持ちの彼女とぶつかった。

「俺、寝てた…みたいだな」
「起こさない方がいいかと思ったんですけど、」

でも、と口ごもる彼女に「いや、こっちこそ、ごめんな」と謝り、体を起こす。彼女はそっとベッドに手を着きながら座った。シーツが沈み込んだと同時に、ふわり、と真新しい石鹸の香りが漂った。全てを包み込むような白い泡と彼女の肖像がぴたりと重なる。

「シャワー、ありがとうございました」
「髪、乾かしてこればいいのに」
「時間、なくなるので」

コートを脱いだ時も思ったが、バスローブ姿になると、彼女はますます細く見えた。力を掛けてしまえば、折れてしまいそうなくらい。まだ濡れている黒髪が僅かな部屋の明かりに艶めいて、すごくきれいだと思った。そこに唇を落とし、ゆっくりと押し倒す。こういう時、相手が商売だと分かっていれば、楽だ。甘い言葉を紡ぐ必要も、組敷くまでの手順を考えなくてもいい。その後することは同じなのに、付き合っていると今後のために、演技というか駆け引きというか、そういったことをしなければいけない。けど、一夜限りの関係と分かりきっていれば、ただ指を絡め取って、熱を零していくだけで、後は流れに呑まれていくだけですむ。

「ん…ぁ、」

熱を押し殺すような鼻がかった声が耳を突き抜け脳髄を揺さぶる。互いにどこがいいのか分からないのだ。最初はどことなく厳かな気持ちで探り合っていたのが、段々と昂っていく声に煽情される。首筋に唇を這わせたまま、俺の手は自然と彼女の体を覆う布を取り去るためにローブの紐に掛かって---------。

「え」

空を切る感覚に、思わず固まった。密着していた肌から顔を剥がしてみれば、急に行為を止められたのを不審に思ったのか、潤んだ瞳が俺を見上げていた。

「どうかしました、か?」
「お、とこ?」

俺の指先は、想像していた柔らかい乳房を掴むことは、なかった。







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