留→←伊 (雑伊前提)

頬を枕に押し付けるようにして顔を横に向ければ、淡い光がまろやかな闇を包み込んでいるのが目に入った。障子を通り抜けて届く月明かりは柔らかく室内を照らし出している。望月は過ぎたとはいえ、蝕の影が少ない月の光に、物の隈がくっきりしている。物音を立てぬよう、意識を隅々まで巡らせ、ゆっくりと体を起こした。

(留さんは、寝てる、かな)

ぼんやりとした白の寝間着は、僕に背を向けていて。髷を下ろした黒髪は零れ落ち、首筋辺りで絡まっている。顔は見えないけれど、規則正しく上下する肩にそう判断し、布団から残りの半身を出す。木の床にひたりと触れた足裏ににじり寄る冷たさに、一瞬だけ、迷った。

「行くのか?」

地の底から低い声に、抜き出した足をその場に静かに下ろした。扉に手を掛けたまま振り返ると、さっきと変わらない背中がそこにあった。けれど、よく知るそれは、目を覚ましているのがありありと分かった。爪を掌に立てて拳を握りしめ、それから、努めて明るい声を出す。

「留さん…起きていたの?」
「行くのか?」

僕の言葉を流して重ねられたそれは、問いかけというよりも確認のようで。多分、気付いているのだろう、僕が毎晩のように抜け出して、あの人の手当てをしていることを。どうしたって留さんに見破られているのに。なのに、口を吐いたのは嘘だった。

「行くって、あぁ、そう、…ちょっと厠に」
「伊作」

すぐさま、鋭い声が飛んだ。遮られた偽りの言を、もう告げる勇気もなく、続きを咽下する。酷く掠れた声が、彼の背中の向こうに届いた。

「お前の口から嘘、聞きたくない」
「ごめん」
「行くのか?」

再度の問いかけに、僕は3つ分だけ息を止めて、「うん」と頷いた。僕が出した答えを「そうか」と留さんはあっさりと受け入れた。てっきり反対されるとばかり思っていた僕は「…行くなって言わないの?」と思わず訊ねていた。相変わらずの背中がやけに遠い。

「俺が行くなって言ったら、行かないのか?」







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