竹久々(現代)
流しっぱなしだったDVDはエンドロールもとっくに終わって、最初のキャプチャ画面に戻っていた。そこには炎なんだか霧なんだかよく分からないエフェクトで、息をつく間もなく映像が変わっていく。無駄な効果なのはそれだけでない。時々、思い出したかのように話内で使われていたBGMが唸りを、上げた。海外の刑事ものだったせいか、アクションシーンでの派手な破裂音も聞こえくる。
「兵助」
ぺちぺち、と軽く兵助の頬を叩く。だが、すっかり寝入っている彼は、「ん、」と意味ない音を小さく立てただけだった。最初から重たそうな瞼をしていた兵助は話が進むにつれて、舟を漕ぎ始め、クライマックスにはしっかり俺の肩に頭を預けていたのだった。
「兵助、寝るなら布団」
これくらいの重み、全然平気だが(むしろ、柔らかな温もりを離したくない)、季節が季節だ。風邪を引かれるのが嫌で、今度は肩を少し強めに揺さぶる。と、「はちぃ?」と舌足らずな声が耳をくすぐった。とろんと溶けている眼差しに目覚めとは程遠いことが分かる。
「ほら、ベッドで寝るぞ」
「んー。あ、犯人、誰だった?」
おぼつかない声に「明日、教えてやるよ」と兵助の頭を撫でて誤魔化す。と、いうのも、前に同じことで喧嘩したことがあるからだ。その時も、途中で寝てしまい、寝ぼけ眼で事件の顛末を訊ねてきたのだ。ネタバレになるから、と拒否ったが兵助のしつこさに根負けして、教えた。
(なのに、変なとこしか、覚えてねぇんだもんなぁ)
自分から聞き出したくせに、その事実を忘れ、ただ犯人の名前だけ覚えていて、ひどく不機嫌になったのだ。
「えー。今、知りたい」
どこのだだっ子か、ごねだした兵助に「明日、もう一回、付き合ってやるから」と、何とか宥める。寝ぼけている時の兵助はちょっと厄介だ。
「絶対?」
「絶てぇ」
「本当に?」
「ホントに」
それまで膨れっ面だった兵助はふにゃり、と笑い、普段の兵助なら絶対に言わない事を口にした。
「ハチ、大好き」
(前言撤回。寝ぼけてる兵助も可愛い!)
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