勘→←鉢
首筋から顎にある境界を唇でなぞれば、俺の背中に回されていた指が、ぴくり、と蠢いた。情事の最中だったら気付かないだろう、と思えるほど幽かな気配だった。けれども、それまでされるがままだった鉢屋が初めて示した抵抗だっただけに、俺にはやけに大きく響いた。
「怖い?」
嗤いながら問えば鉢屋は、それまでぎゅっと瞑っていた目を開けた。ぽっかりとした穴のような瞳に映り込んでいるのは自分だけで、鉢屋が何を考えているのか、さっぱりだった。この手はこの唇は確かに鉢屋の熱に触れているのに、虚を抱いているようだった。奴の本性を暴きたい、そう擡げていた欲が急に冷えていく。怖い、そう思ったのはもしかしたら、自分の方かもしれない。感覚が失われていく指先を、再度、面の皮に這わせれば、鉢屋の口元が緩んだ。
「私を誰だと思ってるんだ?」
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