5年(Home・同居話)

※鉢雷+竹久々前提の同居設定。勘ちゃんも入り浸り中。

「おかえり、ハチ」
「あ、おかえり」

共有スペースにでん、と置かれたこたつには、ぬくぬくと首筋まで布団を持ちあげるようにして兵助がくるまっていた。その隣の雷蔵はといえば、布団を引っ張られても全然構わないらしい。むしろ、パーカーの袖をめくり上げている。童謡でたとえるなら、暑がりの俺と雷蔵は雪の中でも走り回る犬だろう。体感温度が違うからこそありえる平和な光景で、これで兵助の隣が三郎だと布団の奪い合いになる。そんな小さな布面積の差で温かさが変わるなんてアホらしい思うが、寒がりな二人にとっては死活問題らしい。そういやもう一人の猫が見当たらないな、と思って、「あれ、三郎は?」と尋ねれば、雷蔵がいじっていた携帯を俺の方に軽く掲げた。

「三郎はバイトが少し伸びた、ってさっき連絡があったよ」
「げ、人数分買ってきたんだけど」
「そっか。食事当番、ハチだっけ。あ、でも、ご飯は食べるって言ってたよ」

俺らのやり取りに首から上だけを布団から出していた兵助は、僅かに体を動かして俺の持っていたスーパーの袋を見遣った。こたつから出ればいいものを、首をぐっと伸ばして覗きこむ様に、本当に寒がりだな、とちょっと呆れる。

「ハチ、何、買ってきたんだ? 取っとけないもの?」
「いや、今日は節分だからさ」

がさごそと音を立てて袋の中を漁り、「じゃーん」と擬音付きで取り出せば二人の目がふぉぉ、と輝くのが分かった。

「うわ、すごい!海苔巻きじゃなくて……えーっと」
「恵方巻き、だっけか?」
「そうそう、それ。わざわざ買ってきたんだ」
「おぉ。せっかくの節分だからな。ちなみに豆は買いませんでした」
「えぇ、なんで?」

不思議そうな表情で尋ねてきた雷蔵に「嫌な予感しかしないから」と告げれば兵助が「あー」と納得したような声を上げて。そこで悟られるのも悲しいものだが、お約束的なものは、どうしようもないわけで。

(もしやろうものなら、ぜってぇ、じゃんけんで負けて、俺が鬼になる)

そう、そのために今回はあえて恵方巻きなんかを買ったのだ。一応、節分行事はした、と言わしめるために。ようやく理解した雷蔵が「苦労人だね」と労わるように俺の背中を軽く叩いた。その優しさに涙する前に「じゃ、まぁ、食おう」と俺は丁寧に包装されたパックのフィルムを剥がすことにした。

「で、なんかルールがあるんだっけ? ハチ、知ってる?」
「や。詳しくは。兵助は?」
「あー確か、恵方を向きながら一言もしゃべらずに食べきるんだっけ。その時に願い事をしながら食べるといいらしい」
「へぇ、願い事は初めて知ったなぁ。けど、恵方ってどこなの?」
「年によって違うらしいけど、今年がどこかまではさすがに知らない」

兵助の返答に、思わず、「え、どうする?」と三人顔を見合わせた。とりあえず買ったはいいが、そんな方向までは全然気にしてなかった。記憶をたどっても、そういやこの恵方巻きを買ったスーパーで方角の書いてあるポップが張り出されていたような、と霞がかっていて曖昧なものばかりで。さて、どうしたものか、と思っていると、不意に雷蔵が沈黙を割った。

「どうするもこうするも、食べないとね」
「……そうだな。俺、海苔がしなびるの嫌いだしよ」
「せっかくだから恵方を向きたいけど、まぁ、それは来年にしておこうか」

パックに入った恵方巻きを取り出して兵助と雷蔵に手渡し、「じゃぁ」と丸のみしようとした瞬間、「あ」と雷蔵がやけに大きな声を発した。まだ食べる前だからセーフだよな、と兵助が確認を入れた上で「どうしたんだ?」と雷蔵に尋ねれば、彼は「いい方法が思いついた」と声を跳ねあげた。

「いい方法?」
「って?」
「ほら、とりあえず、360度、ぐるぐる回りながら食べたらさ、どこかで今年の恵方角に当たるんじゃないかな」

***

「おじゃましまー」

途切れた勘右衛門にぶつかったらしい三郎が「お前、こんなところで止まるなよ」と悪態を付いているのを横目に見る。いつもなら「三郎」と咎める雷蔵の声も、今日は聞こえない。もがもがと口の中に酢飯と具材を頬張りながら(と言うよりは、押し込みながら、が正しい)いると、ひょい、と勘右衛門越しに俺らの方を覗きこんだ三郎が固まりついていた。そりゃそうだろう。目の前で三人が、口に海苔巻きを突っ込みながら、死屍累々といるんだから。

「お前ら、何やってるんだ?」
「「「酔った」」」







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