虎三(現代)


息を止めたかのように、一瞬、呼び出し音が途切れたような気がした。押し当てた耳が静けさに痛い。自分の拍動を越えて「もしもし」と少し掠れたような虎若の声が届いた。いつもより低く感じるのは気のせいだろうか。寝ていたんじゃないか、って思ったら、急に気持ちが萎んで、「あ、」と言ったまま何も言えなくなる。

「やっぱ」

すぐさま切ろうと電源ボタンに指を伸ばして、けれども、それが実行されることはなかった。虎若に「やっぱりいい、って言うなよ」と先を制され、言葉を失う。瞼裏に、ガシガシと頭を掻く彼の姿が浮かんだ。

「どうした? 何があったんだ?」
「『か』じゃなくて、『が』なんだ」
「はぁ?」
「ううん。こっちの話。特に用事があったわけじゃないからさ、ごめんね」
「用事がねぇって、」
「うん、何でもないからさ」

ラインの向こうにある静寂は躊らいの吐息さえ筒抜けになりそうで。機械ごしの声はやけにリアルで、すぐ近くにいるような気がして。けれど、実際に隔たる距離はずっと遠くて。どうしようもなく、泣きたくなった。薄っぺらな携帯を握る手に力を込める。爪が皮膚に食い込んで白んでいくのを、ただただ見つめるしかなかった。もう一度、「ホント、何でもないって」と口角を引き上げ明るく答えれば、しかたないなぁ、って声音で虎若に名を呼ばれた。

「三治朗」
「うん?」
「俺の前でくらい、笑わなくてもいいんだぞ」






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