文仙

ザクリ、と鈍い感触は氷ではなく霜であるためだろうか。足元の枯れた草が朽ちかけている土は若干盛り上がってみえた。悴んだ手を温めようと、ほぉ、と吹き掛けた息は、傍から冷えていく。湿った指先が赤く腫れてむず痒かった。霜焼けなんぞ、幼き頃にはよく作ったが、手先の感覚の狂いが命取りになることを知って以来、数年ぶりにこさえてしまった。

「仙蔵」

あとで塗り薬をもらわねば、と考えている思考を、鈍い音が邪魔した。ザクリ。特に意識を払うことなく踏み下される足音は、よく知った奴のもので。振り向かずに嫌味を一つ投げてやる。

「相変わらず、朝から元気だな」

私の隣に並んだ文次郎は皮肉すら通じない堅物だ。その証拠に「夜中からやっていた」とずれたことを言って訂正してきた。自主練習で体が温まっているせいだろうか、文次郎の肩から盛んに蒸気が登り立っていた。すぐさま取りこもうとする寒さの残る夜闇に、その白が際立って浮かび上がっている。放っておけば、いくら体力馬鹿のこやつでも風邪を引くだろう。

「さっさと水浴びして体を拭いてこい。……汗臭い忍がいるものか」
「分かってるさ。お前が見えたから来ただけだ」

迎えに来てくれたのか、など調子づいたことを言うものだから「あほ」とど突いておく。と、奴の視線が私の手に縫いとめられたのが分かった。

「珍しいな。お前がしもやけを作るなんて」
「不覚だ。痒いというか腫れてて、痛い以外の感覚がなくて敵わない」

自分の注意不足が招いた結果だけに、ため息を付くこともできない。素直に認めれば、ふーん、と興味深そうに文次郎は私の手を取った。そのまま頭を下ろし、顔を近づけていく。何をする気だ、と思えば、奴は指先に唇を落とした。

「な、」
「この感覚も分からない、か?」

はっきりと刻まれた熱は、明らかにしもやけのそれとは違う。ちらり、と見上げられた色から『確信犯』という言葉が頭を過る。その部分からじわじわと侵食してきた熱さが体中を巡って頬までくるのが分かった。

「……知らんわ、あほ」




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