鉢雷(home・同居話)

年も押し迫った暮の暮、久しぶりに全員がそろった夕食の場は、何となく倦怠感が漂っていた。(というのも、ハチや三郎はクリスマスから年末商戦ってことで、馬鹿みたいにバイトが入ってたからだろう。僕や兵助はというと、最後の最後まで教授の頼みを断り切れず、仕事納めまで付き合ってしまった) 豆腐入りの味噌汁を啜り終えた兵助がぽつり、と呟いた。

「あ、ゴミ出し、明日までだな」

兵助の視線の先には、冷蔵庫に貼られたごみ出しの曜日が書かれたカレンダー。小鉢のしいたけと格闘していた三郎がすぐさま反応する。

「げ、マジで? 大掃除してねぇのに」
「おー。次はいつだろうな?」

兵助の正面に座っていたハチが、椅子から立ち上がって見に行く。普通、行政が出すカレンダーは年度末で区切れると思ってたけど、どうもこの地区は違うらしく、ごみ袋のマークは付いているのそれは今年の12月までのものだった。

「あー、小さく書いてある。うげ、次、正月三が日明けだぞ」
「おぃ、馬鹿左ヱ門、さっさと掃除しろよ。嫌だぞ、ゴミにまみれて新年を過ごすなんて」
「それを言うなら、雷蔵もだろ」

三郎の言葉にすぐさま反論をしたハチの飛び火はこっちに来た。あー、って顔してみないでよ、兵助。僕だって分かってるんだからさ。元々、物が少ない兵助と変なところで几帳面というか綺麗好きな三郎は大掃除といっても大したことないだろう。問題は、物が足の踏み場のないってくらいたくさんあるハチと、それから迷ってしまって物をなかなか捨てれない僕だった。

「あーうん、頑張るよ、今から」

***

「どう、雷蔵?」

ひょこりと顔を出した三郎は、僕の部屋の惨状に顔を引きつらせた。ため息すら出ないようで、目眩がするとでも言うかのように、軽く天を仰いだ。

「これ、明日の朝までに終わるか?」
「終わらせる、よ。多分」

僕の声に弱音を嗅ぎとったのか、三郎が手伝い始めた。「いつもの大雑把を発動させればいいんじゃないか」と、彼の足元に転がっていた何かを拾い上げる。そうなのだ。一度投げ出してしまえば、さっと片づけれるのだけど、僕の場合は「捨てるべきか取って置きべきか」で時間がかかってしまう。

「技みたいに言わないでよ」
「すまんすまん。けど、さっさとやらないと、本当に終わらないぞ。これ、捨てるぞ」

サクサクと仕分けしていく三郎の手には、プラスチックで象られたキャラクター。夏頃に集めていて、結局、シークレットだけが出なかったペットボトルのキャップホルダーだった。

「え、ちょっと待って」
「待たない」
「せっかく、集めたのに」
「じゃあ聞くけど、これ、飾ってあった?」

痛いとこを突かれたと思いつつ首を振ると畳み掛けるように「使う予定があるのか」と尋ねてくる。「けど、」となおも食らい付くと三郎は「使うかも、は99パーセント使わないからな」と容赦がなかった。

***

「雷蔵、この箱、何?」

そんなこんなで僕の部屋の仕分けが始まって数時間、見違えるほどさっぱりしたところで、三郎がベッドの下から見つけてきた。

「や、それは駄目」
「何なに、やらしーの?」
「三郎じゃあるまいし……とにかく絶対に見ないでよ」
「そうやって言われると見たくなるんですけど」

僕が止める間もなく三郎は「あやしー」と嬉々として箱を開けて、それから、ぽかりと口を開けた。

「これ、」
「……だから見られたくなかったのに」

恥ずかしいなぁ、と続けると三郎は「いっつも、びりびりに破るから、捨ててると思ってた」と呆気に取られたように呟いた。箱の中に入れてあったのは、包装紙だった。三郎がプレゼントや土産なんかをくれた時に包んであった、それ。贈られた物はもちろんなんだけど、それも捨てれなくて。手先が不器用なのか何なのか、開封する時はテープがうまく剥がれなかったりして、たいてい包装紙は破れちゃったりして、もう使い道がないって分かってるんだけど。けど、ずっと、捨てれなくて、こうやってこっそり仕舞っていた。

「もしかして、全部、取ってあるのか?」
「……うん」
「やべ、なんか、嬉しいかも」





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