鉢雷(現代)


いつもは同性同士のグループも多いテーマパークもクリスマス当日のせいか、辺りはカップルや家族連ればかりだった。僕たちだって付き合っているんだから、堂々としてればいいものの、なんとなく周りの視線が気になってしまう。こっそりと引っ付いたり手を繋ぐどころか、同じ写真に収まることもせず。来たはいいものの、どんどん無口になってしまって、盛り上がりに欠けたまま帰路の途に着くことにした。

(せっかくのクリスマスだったのにな)

夕刻が深まるに連れて増えていくカップル達は、皆、楽しそうで。虚しさと淋しさを抱えて入り口のゲート付近まで戻ってきた。

「せっかくだから、写真でも撮る?」

ちょっとした広場になっているそこで、たくさんの人達が集まって記念撮影に勤しんでいた。三郎の提案に頷くも、きっと、二人で写ることはないだろう。その証拠に、僕だけを適度な場所に立たせると三郎はデジカメをいじりだした。

「すみません、写真、撮ってくれませんか?」

デジカメの角度に、あーでもない、こーでもないとこねくり回している三郎を横目にぼんやり立っていると、後ろから声を掛けられた。振り返れば、黒髪の女の子がいて、おずおずとデジカメを差し出された。

「あ、はい。いいですよー」
「ありがとうございます!」

はにかんだ表情は幼く、まだ、中学生ぐらいだろうか。ぺこり、と少し後ろの方で頭を下げた男の子の方は緊張しきった顔つきをしている。きっと、彼からすれば一世一代のデートなんだろう。

「これ、押すだけでいいんで」

ボタンの位置を指で示すと、彼女は小走りで彼の元へと駆け寄った。髪を直す仕草が微笑ましい。

(僕たちにも、あんな頃があったんだよなぁ)

デジカメの画面から滲む初々しさに、自分を重ねては、くすぐったい気持ちになる。にやける頬を引き締めて、いざ、「はいチーズ」と声を掛けようとして、はた、と気がついた。

(近いとリースが画面が見切れちゃうし、遠いとぼけちゃうだろうな)

入場ゲートからすぐ、土産物が並ぶアーケードの軒先から巨大なリースが宙に吊り下げられていた。このテーマパークのキャラクターが飾りとしてあるリースは、玄関口ということもあり、中に入ったらまず最初にカメラを構える場所になっていた。それだけなら、別に普段と変わらないだろう。けど、そのあたりにはいつも以上に人だかりができていた。その理由はカメラのアングルにあった。宙に吊るされて、うまく画像に入りきらなくなるんだ。僕たちや周囲の人達が足を止めて、しきりとカメラを構え直していた。

(んーどうすると、両方上手く写るかなぁ)

カメラを縦にしたり横にしたり、ズームしたり、逆に遠くしたり…。色々してみたけど、どうも上手く収まらない。

「雷蔵、ちょっと貸して」

ひょい、と僕の視界を黒のライダースーツが過ったと思った時には僕の両の手から重みが消え去っていた。三郎はその場でしゃがみこみと、カップルを見上げた。

「はい、お姉さん、もうちょい寄って、はい、その位置ね。お兄さん、笑顔笑顔。せっかくカノジョが隣にいるんだから。そうそう、いいじゃん、男前。こっちに目線ね。いきまーす、はいチーズ」

満面の笑みの女の子と照れくさそうだけど幸せそうに微笑む男の子、それから、リース。切り取られたワンシーンが僕の瞼に焼き付いた。

「ありがとうございます!」

三郎から受け取ったデジカメを大切そうに鞄にしまうと、その幼いカップル達は浮かれた足取りで雑踏へと消えていった。

「三郎、」
「何?」
「ここでバイトしたら?」

そうからかうと、三郎は笑い、それから僕に囁いた。

「ほら、そこに立って」

言われた通りにその場所までいくと、三郎は自分のカメラを掲げた。どうやら、僕だけを入れて撮ろうとしているらしい。「はい、チーズ」と三郎の指先がシャッターを切ろうとした瞬間、僕の頭にさっきのカップルの光景が甦った。

「三郎、待って」
「雷蔵?」
「せっかくだからさ、二人で写ろうよ」






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