留伊(現パロ)


「あ、ちょ、留さん」

呼び止めの言葉も虚しく、ツー、と耳元で恨めしげな音が響いた。恨めしげなのは、自分か。押し当てていたそこから聞こえてきた断線の音が、ぷつり、と途切れた。完全に失われたラインに、仕方なく携帯を耳から離す。

「最悪」

夕闇の中でもはっきりと分かる液晶の黒さに、電池切れを再確認する。言いつのった言葉は未消化のままで。結局、口にできずに喉で止まってっていてそれが、そのまま胸底へと逆流して。なんだか、もやもやする。むかつきが収まらない。昨日充電するのを忘れ、朝、気がついたけど結局そのままにしておいた自分を呪いつつ、どこかへ投げ捨てたくなるのをなんとか抑えて携帯をコートのポケットにねじ込む。その中が妙に温かくて、手袋を忘れた身には心地よく、右手を突っこんだまま、僕は家に帰ることにした。

「はぁ」

気の早い世間は、まだ当日でもないというのに、あちらこちらでライトアップをして、もうクリスマスみたいな雰囲気だ。鮮やかに彩られているその下で睦まじく談笑するカップル達は、イルミネーションに負けじと煌めいているように見えて。こっちのことなんて眼中にないのは分かっているけれど、だからこそ、余計に腹が立つ。

(…僕だって、本当は留さんと出かけるはずだったのに)

待ち合わせの場所に、ちっとも来ないから心配になって電話をかけてみれば、「急にバイトの交代が来れなくなったって店長に泣きつかれて」なんて。お人よしにも程がある。そりゃ、留さんのバイト先のことを考えれば仕方のないことなのかもしれないけど、こっちだって、久しぶりの約束なのに。

「留さんのアホ。バカ。まぬけ。でべそ」

ざくざくと、人波をかき分けるようにして歩く。口を吐いた悪態は連鎖して、いくつでも出てきそうな勢いだ。紡がれる言葉とともに、闇の中に息から洩れる白が誕生と消滅を繰り返す。全部吐き出したら、ちょっと、胸のつかえが取れたような気がした。

「ふん…ぜったい、今度奢らせてやる。うんと高いもの買わせてやるんだからね」





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