竹→鉢雷

そろそろ寝ようか、なんて考えて布団を敷いていたら、ふと障子に濃い影が映っているのに気付いた。長く伸びるそれの形は、よく知った彼たちのもので。けれど、俺は迷わずその名を呼んだ。「三郎」と。なにせ、今日は雷蔵は学園長のお使いに出ていて長屋にはいないのだ。僅かな躊躇の気配は、気のせいだろうか。一寸の後、スパン、と勢いよく開けられた障子戸の向こうで闇がざわついた。

「なんか、つまみ、ねぇのか?」

夜着姿の彼の手からは、縄で括られた酒瓶が垂れさがっていた。勝手にずかずか部屋に入り込むと、俺の布団にどっかと腰を下ろす。こっちの都合などお構いなしだが、強く帰れと言えないのは、惚れた弱みだろう。

「どうしたんだ、これ?」
「寒くて寝れないものだから、くすねてきた」

楽しそうな、今にも口笛が飛び出してきそうな緩んだ唇は、けど、確かに青白い。こんな薄着で風邪引かねぇだろうか、と心配する俺をよそに「ま、呑めよ」と三郎はぐいのみを差し出してきて。一瞬、指先がすくんだ。受け取る時に触れた三郎の冷たさに、背筋が粟立つ。こいつ本当に血が通ってるのか、と思わずにはいられねぇほどの、体温。

「お前、ホント、冷たいな」
「冷え症なんだ」

普段どうやって寝てるんだ、と問うと三郎は笑みを零した。「雷蔵の隣で寝れば温かい、」と。その屈託のなさに、つきり、と胸の奥が痛む。普段から嫌というほどわかっているのに。三郎にとって雷蔵は特別なのだと。けど、こうやって改めて知らしめさせられると、けっこう、辛い。

(どーせ、雷蔵がいなくて淋しいから俺のトコに来たんだろう)

思わず「お前さ、雷蔵と離れたら、どうやって寝るんだよ」とひどい言葉を投げた。己のぐいのみに酌をしていた三郎の手が止まる。たぷん、と器の中で注がれた酒が揺れて細波が生まれた。ほんのわずかな水面で、ぶつかり、うねり、そして相殺されて消えていく。最後の波が消えて、再び静けさが落ちる頃、ぽつり、と三郎が呟いた。

「そしたら、ハチ、お前が酒に付き合ってくれるだろ」





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テーマ「人外ファンタジー」
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