竹鉢? (現代)

自動ドアに続いて盗難防止のゲートを通り抜けると空調の効いた乾いた風が肌を撫でた。天井からつりさげられた飾り気のない照明に妙に白く明るい空間が広がっている。そろいの青いスタッフジャンバーを着た店員が「いらっしゃいませ」と声を張り上げた。ただっぴろい店舗はそれなりに客がいる感じで、それぞれが思い思いに買い物をしている。俺も目当てのシューズコーナーに足を向けた。

それぞれのブランドカラーとメーカーのロゴが目につく。普段から履くものだけに、自分に合ったものを見定めようと、俺はじっくりと品定めに入った。背丈よりも随分と高い場所までずらりと陳列されているシューズたち。エナメルの素材なのか、上からの光でぴかぴかに輝いている。

(こっちはデザインはいいけど重たいし、これは似合わねぇ、な)

ふ、と視界の端に流線型のスニーカーが飛び込んできた。黒をベースに嫌味にならない程度のゴールド、紐が遊ばれたデザインが気に入って、それに指を伸ばす。手に取ってみると、軽さもちょうどいい。サイズを確かめようとひっくり返すと、靴底に刻まれていたのは、自分よりも一つ小さい物で。在庫がどっかにあるだろう、と目につくところは探してみたものの、その品番のシールが貼られている箱はなくて。可動式の棚の隙間から見える靴の箱の山は、今にも崩れそうで微動だにしない、つまりは絶妙なバランスで積まれていた。ここから探そうと思うと、相当、骨が折れそうだ。

(どっか、店員、いねぇか?)

辺りを見回すと、ちょうど青いスタジャンを見つけた。店のロゴが入った背中は、製品か何かの確認だろうか、忙しそうだったが俺はスニーカーを片手に声をかける。

「すんません、」

「はい」と振り向いた店員は人当たりの良さそうな笑顔を見せた。すぐさま整理の手を止めて俺の方に姿勢を直すところに好感を覚える。ネームプレートには竹谷の文字。

(たけたに? いや、たけやか?)


「これの一つ大きいのってある?」
「あー、ちょっと待ってくださいね」

俺からそのスニーカーを受け取ると、す、っと従業員用の扉に消えた。数分もしないうちに、申し訳なさそうな表情を連れて彼が戻ってきた。

「すみません、そのサイズは、今、品切れでして」
「そっか」

予想通りの言葉にぞのまま踵を返そうとすると、「あ、けど、」と竹谷が俺を引きとめた。

「あ?」
「たぶん、そのサイズでいいと思う」
「え?」
「この型、見た目が細い割に中はでかいっつうか、足の辺りの切り返しが特殊っつうか、あーとにかく履いてみたら分かるんで」

差し出された靴に、絶対小せぇよな、と内心思いながら、半信半疑で足を突っ込む。と、思ったよりも奥行きがあって、足にぴったりとはまり込んだ。「どう?」と嬉しそうに話しかけてきた彼に「あぁ、」と答えながら、ちょっと歩いてみる。これ以上ないってくらい、しっくりときて。「これにしようかな」と呟くと、彼はぴかりと笑った。

「ありがとうございます!!」






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