鉢雷(現代・転生?)
ぱちん。乾いた音が跳ねた。ぱちん。ぱちん。ぱちっ、
「あ」
最後の最後で失敗した。切り損ないの破片は下に引いたティッシュペーパーをあっさりと超えて、どこかへ行ってしまった。怪我をすることはないだろうが、踏んでしまったら痛いだろう、と一応、飛んでいったらしき方向を探す。けれど、いくつ畳の目を数えたところで白の半月は見つかることはなかった。見つけるのを諦め、くしゃ、っとティッシュを丸めてゴミ箱にシュート。綺麗な放物線を描いたくせに、それは筒の端に引っかかって畳に転がった。とことん、最後が決まらない日だ。
「爪、切ってたの?」
背後に向き直りながら、あぁ、と私が同意すると雷蔵は掌を突き出した。ちょうど風呂から上がったところなんだろう、ほこほこと湯気を上げて。「僕も切る」と言う雷蔵に、しばらく握りしめていて温かくなってしまった爪切りを渡す。ありがとうと笑った彼は私の隣に腰を下ろした。
「昔さー、夜中に爪を切っちゃ駄目って言われなかった?」
「あー、あったな。肉親が死ぬってやつだっけか?」
「うん」
「んなの、迷信だろ。風呂上がりが一番切りやすいし」
そうだね、と笑った雷蔵は爪を切りだした。ぱちん。ぱちん。ぱちっ、
「あ、飛んでちゃった」
わずかに触れ合っている温度だったり、その重みだったり。ずっと当たり前に感じてきたそれが、どうしようもなく愛しくて。だから、ぱ、っと離れた瞬間、どうしようもなく、淋しかった。
「後で探せばいいさ」
「うん……」
再びの温もりも温かさも、雷蔵のどこか心細そうな声音を前にあっさりと冷えてしまった。どうした、と私が問うと雷蔵はちょっと困ったように目を伏せた。けれど、どうせ誤魔化せないと判断したのか、ぱちん、爪を一つだけ弾かせると、そっと呟いた。
「あの頃はさ、足の爪は似てなかったのにね……血が繋がってるとこんなとこまで似るんだなぁと思って」
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