5年(現パロ)
(あー、だりぃな草むしりとか、マジ、ふざけんな)
ぶつぶつと文句を心の中に留めておくのは別にいい子ぶって、ってわけじゃねぇ。声を出す労力を惜しんでのことだ。いや、声を出す元気すらねぇ、というのが正確なところかもしれねぇ。五月にしては暑すぎる、と頭に巻いたタオルでは収まりきらずに垂れてきた額の汗を拭う。
(クソっ! こんなんなら、サボらなければよかった)
じぃさんに言い渡された罰はクソ暑い中での草むしりだった。こうも暑いと「ったく何で自分が」と己の所行を棚に上げ文句を言いたくもなる。途中、あまりの暑さに、これもさぼっちまおうか、と思いもしたが、そうすればさらに面倒な罰を押しつけられるだろう。どっちがマシかと天秤に掛けて。ここまでやったのだから、と草むしりを続行したのだが、
(あー冷たい麦茶が飲みてぇ。あと、甘い物、食いてぇな)
突き刺さってくる陽射しに耐えかね日陰に避難して。とりあえず、その周囲の草をむしっていたところまではよかったものの、そろそろむしるところがなくなってきた。日陰に限って言うならば、手の爪ほどの、まだ土から顔を出したばっかりの雑草まで抜いてしまって、地面はぼこぼこになっている。ちらり、と乾ききって白んだ地面に視線を遣ったが、あまりに眩しくて、ついつい目を背けてしまった。
(本当にこれ、五月なんだよな)
異常な暑さに、そう突っ込みたくなるが、五月であることは間違いないのだ。寺の静けさを考えれば。町自体は連休のために人口が普段の1.5倍くらいに増えて賑やかなんだろう。だが、馬鹿みてぇに忙しくなる彼岸や盆、年末とは違い、寺とゴールデンウィークは全くもって関係がねぇ。郷里に帰ってきてもわざわざゴールデンウィークに墓参りをする人は少なく、おかげで長期休みにしては、ゆっくりとできるのだが、いかんせん、静かすぎる。
(あんまり静かってのも、どうも落ち着かねぇよな……今頃、あいつらも行楽地とか行ってんだろうな)
あいつら。雷蔵、兵助、ハチ、勘右衛門の顔がぱっと浮かんだ。あいつらが来ねぇから、こんなにも静かなんだろう。これだけ暑ければ蝉の一つでも鳴いて煩くなりそうなものだが、生憎、まだやつらは土の中で長ぇ眠りに就いてるんだろう。地上を夢見ながら。夏になればなったで、喚き散らす蝉の声に苛立つんだろうが、今はその騒々しさが欲しかった。誰もいねぇ静かな寺で若い男がひとりで草むしりだなんてシュールすぎる、そう胸中で愚痴ってると、
「三郎」
す、っと涼やかな声が己の疲れを一気に吹き飛ばした。続いて賑やかしい声が、境内に一気に響き渡る。
「おつー、鉢屋」
「大変そうだな」
「何、やってんだよ、お前」
屈伸したまま体を捻れば、いつもの面子がぞろぞろと山門をくぐってきたところだった。
「雷蔵! 勘右衛門に兵助も。どうしたんだ?」
「ん、柏餅、一緒に食べようと思って」
今日は端午の節句でしょ、と雷蔵はふわりと笑った。
「ちょ、俺もいるんですけど」
「出かけてたんじゃないのか?」
ハチの言葉は気に留めずに訊ねれば「ゴールデンウィークだからって休めれるわけないだろ」と勘右衛門が至極当然な面持ちで「俺の家、稼き入れ時だし」と続けた。そう言われて、やつの家が和菓子屋兼甘味処だったことを思い出した。
「おい、三郎、聞こえてるだろ」
「柏餅って、勘右衛門の家の?」
「あぁ。みんなに、って小母さんがくれたんだ」
「三郎もちょっと休憩してさ、一緒に食べようよ」
「おぃ、何で俺を無視するんだよ」
ぎゃぁぎゃぁ言いだしそうな気配に溜息を盛大に吐き出して答えておく。
「え、ハチだから」
「ふざけんな」
打てば響く、すぐにそう返って来たが、また無視して私は踵を返した。
「茶、入れてくる。冷たいのでいいだろ」
***
「何だ、兵助のところも休みじゃねぇのか?」
柏餅を造って売っている勘右衛門の家はともかく、豆腐屋は別にゴールデンウィークは関係ねぇだろ、と思っていただけに、驚いていると逆に兵助に驚かれる。
「休めるわけないだろ」
「何で?」
「あぁ。親父が言うに、一日釜の火を落としたら、取り戻すのに一週間は掛かる、って言うからな」
と、兵助はしみじみと語った。兵助の豆腐へのこだわりは、間違いなく遺伝だな、なんて感想を持たずにはいられねぇ。勘右衛門が「さすが久々知豆腐店」と感嘆を漏らす。ふ、とハチが「ふあいぞのふぉふぉろふぁふぁんふぇいふぇぇんだろ?」と柏餅を頬張りながら雷蔵に何かを聞いた。が、全く分からねぇ。
「お前、食ってから喋れよ」
そう注意すれば、お茶に口を付けようとしていた兵助が「雷蔵のところは関係ないだろ、だろ?」と翻訳したものをハチに尋ね返した。頷くのと柏餅を飲み込むのが同時だったのか、ハチは苦しげな表情を見せた。
「ちょ、ハチ」
兵助に渡されたお茶を一気に呷り、それから気管から咳を一つ二つ押し出し、ようやくどうにか収まった。心配そうに見遣っていた雷蔵が「大丈夫?」と問いかければ、まだどこか苦しそうに眉を顰めながらも「で、実のところはどうなんだ?」とハチは雷蔵に答えるように促した。
「それが、連休続くと、みんな出歩くのに飽きてくるから、家で雑誌読みながらゴロゴロするっていうのかな? とにかく、結構本屋も混むんだよね」
「へぇ、そうなんだ」
感心したように勘右衛門が深く息を吐きながら呟いた。それから「まぁ、どこもかしこも似たようなものってことか」と付け足す。ハチが「俺ん家はさ、」と話しかけたところで私は話題をぶったぎった。
「で、ハチは彼女いないわけ?」
「はぁ?何でそんな話になるんだよ」
「せっかくのゴールデンウィークなのによ、こんな寺なんてまずデートスポットにはならねぇような所に来てるから、いいのかと思って」
「お前、いねぇこと知っててわざと言ってるだろっ!てか、それ言ったらみんなそうじゃねぇか!淋しい者の集まりだろ!なっ、そうだろ?」
ぐるり、と首を回してハチは残りの三人に視線を巡らし同意を求めた。だが、
「えー俺みんなと一緒にいる方が楽しいから、別にいいけどな」
「僕も。淋しくなんかないよ。みんなといるし」
「そうだな。俺もそう思う。三郎は?」
そう問われて「当然」と答えれば、慌てたハチの声が響き渡った。
「俺だってな、俺だってお前らといる方が楽しいに決まってるだろ」
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5年の日記念!
昨日、三郎が寺で雷蔵が本屋、兵助が豆腐屋でハチが八百屋、勘ちゃんは甘味処の息子、って設定でテンちゃんと商店街パロで盛り上がったので(笑)
5年大好き!出逢えてよかった!
本当にありがとう!
(ΘJΘ)(^し^)(◎▽◎)(σωσ)(`▽´)P
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