鉢雷(現代)

ポッキーの日で双忍の日なので

戦場と化す昼休みを外したせいか生協は思ったよりも空いていた。中途半端に空いてしまった時間を潰すためか、本や雑誌が陳列されている辺りには、昼間の温かさに持て余し気味のマフラーやコートを手にした学生が、ぽつぽつといたけれど、弁当とかサンドウィッチなんかが並ぶコーナーには人っ子ひとりいない。この時間だ。僕たちも、元からそんなものが食べれるとは思ってもなくて、からっぽのそのコーナーの横を素通りし、奥の方で大量に積まれているインスタント麺の前に立つ。

「雷蔵、どうする?」
「うーん、」

来る度に商品が変わってるんじゃないか、ってくらい、様々な種類のあるカップラーメンを選ぶのは、あまり得意じゃない。醤油、とんこつ、塩焼きそば……。気になるものばかりで、なかなか決まらない。やたらと派手な色をしたパッケージなせいか、目がちかちかと眩んできた。

「まぁ、いいさ。どうせ、6限まで暇なんだから。お菓子のところにいるから」

僕のことをよく分かっている三郎は、さっと、定番の醤油ラーメンを片手で持ち上げた。

(あぁ、それもおいしそうだな……)

ますます深くなる迷いのどつぼに僕ははまっていった。

***

さんざん迷って、京風ゆずうどんという謎の新商品を選んだ僕は、お菓子が並んでいるコーナーに足を踏み入れた。と、彼は何やら真面目な顔をして陳列棚を眺めていた。その手には、昨日発売だった週刊漫画雑誌(隔週で交代交代に買っている。今週は、三郎が買う予定になっていた)で、きっと、僕を待っている間に先にそのコーナーに寄ってきたのだろう。その場から「三郎」と呼びかけたけど、反応はなかった。

(何をそんなに真剣に見てるのだろう?)

もう少しだけ近づき「三郎、お待たせ」と声を掛ければ、は、っと顔を上げ、視線を僕の方に移した。三郎が見入っていたものが気になって、さっき三郎が見ていた方に目を向ける--------

「あぁ、そっか、ポッキーの日か」

そこには、生協の『11月11日はポッキーの日』という手書きポップが踊っていた。そこには、鮮やかな赤のパッケージが一つだけ残っていた。いくらポッキーが美味しいとはいえ、普段ならこんなに品薄になることなんてないのだろう、というくらい珍し光景が広がっている。けど、語呂合わせの好きな国民性なのか何なのか、ほとんど空になってしまった商品のことを考えれば、何の日なのか、すっかりと定着してしまっているのだろう。けど、

「僕はプリッツも好きなんだけどな……」

ポッキーとは補色の関係にあるパッケージが脳裏に浮かんだ。忘れがちだけど確か11月11日はプリッツの日でもあるはずだ。

「まぁ、ポッキーの方がイメージが強いからな」
「あー、ポッキーゲームとかね」

笑い飛ばす調子で何となく口に言葉に三郎が「したいの?」と大きく食いついてきた。僕がさっさと「まさか」と否定したけれど諦められなかったのか「じゃぁ、プリッツでも」食い下がってきた。周りに誰もいないからって「たまには塩味とか」とか調子づく三郎に、「寝言は寝てから言ってよね。絶対にポッキーゲームとかしないから。だいたい、ポッキーゲームなんて、何の意味があるのさ」と軽く睨んでおいたけど、

「何の意味って、親密になるためだろ。まぁ、そう考えれば、私と雷蔵の場合は、そんなゲームなんてしなくとも別にいいってことになるけどな」






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