竹久々+5年(現代)

「ここまで、弱いと笑えるな」

勘右衛門に同意するように四つの掌が笑いにひらひらと揺れていた。悔しさに、握っていた拳をさらにきつく力を込める。お約束的すぎる展開とはいえ、一発で勝敗が決まるとか、じゃんけんが仕組まれてるんじゃないか、って思わずにはいれねぇ。やり直しを求めるために言いかけた「ちょ、」って言葉はすぐさま三郎によって却下された。

「待たねぇって。だいたい、ハーフタイムの時にじゃんけんで負けた奴がコンビニに買い出しっつったの、ハチ、お前だろうが」
「だって、こんな結果」

そう食らいついた俺に雷蔵がのほほんと「あ、僕、柿の種食べたい。ワサビのね」と追加注文で遮る。すると買い物リストを作っていた兵助が「柿の種、ワサビ味ね」と流暢な文字で書きたした。その向こうではテレビアナウンサーが饒舌に前半戦を振り返っている。4年に一度のお祭り、って空気とは裏腹に、俺のテンションはどんどんと下がっていく。

「ちょ、兵助。お前、誰の味方なんだよ。恋人が酷い目に遭ってるってのに」

あまりの仕打ちに噛みつけば、恐らくは『恋人』って言葉が逆鱗に触れたんだろう(人前でいちゃつくのを嫌がる兵助のことだ)兵助からは「味方なわけないだろう」と冷たい声が返ってきた。さらに「俺とお前、賭けてるチームが違うんだから、当然だろ」と平然と付け足される。呆れ交じりの兵助の視線にさらに言い返そうとして、

「まー、痴話喧嘩はいいからさ、早く買ってきてよ、ハチ」

勘右衛門によって出鼻をくじかれた。すでに決定事項になっている感じだが、何とか覆すことができねぇかと考えていると、三郎が「そうそう」と話しかけてきた。

「んだよ」
「ハーフタイムは何分か知ってるか?」
「15分くらいだろ」
「正解。で、今、何分経ったか分かるか?」

そうやって問われると、分からねぇ。夢中になっていたあまりに何分に前半が終わったかなど見てなかった俺は「いや」と首を振った。俺の代わりに兵助が「もう5分は経っただろ」と答えた。すると、のんびりした口調で「ここからコンビニまで歩くと往復10分以上は掛かるよね」と雷蔵が呟いた。それに応じるように「ということは? 小学生でもできる計算だぞ、ハチ」と、にやにやと笑う三郎に「うるせぇ、行けばいいんだろ、行けば」と叫ぶ。

(あーもー理不尽だ)

立ち上がって部屋を出て行こうとする俺を「ハチ」と兵助が呼び止めた。

(もしかして、一緒に行ってくれる、とか?)

それならそれで、いい。むしろ、それなら、喜んでコンビニに買い物に行く。10分だろうが20分だろうが、兵助と二人っきりなら、どれだけだって歩けれる。期待する眼差しを俺は兵助に向けた。けれど、その希望はあっさりと打ち砕かれた。俺の手に「いや、買ってくるもののリスト。覚えてないだろ」と紙を手渡した。そこに書かれた買ってくるもののリストに頭を抱える。ペットボトル5本(それぞれの飲みたいもののが違う)にポテトチップスを始めとしたスナック菓子にチョコレートにガム、煎餅にアイスクリーム、プリンまで。それから、から揚げ、フライドポテト、おにぎり……エトセトラ、エトセトラ。いったい、誰がこんなに食べるだって言いたくなるくらい、書き連ねてある。

(あー、もう、どうやったって後半に間にあわねぇっての)

4年に一度、しかも自分たちの代表の初戦。せっかくいい勝負をしてるってのに、と涙を飲みながらも、どれだけ文句を垂れたところで何も変わらねぇのは明白だった。それなら、一刻も早く買いに出て帰ってくるしかない。けつポケットに財布を突っ込み、ダイジェストを流しているテレビに泣くなく別れを告げる。と、兵助が「あ、ハチ」と俺の方を振り返り、その流れで何かを投げた。キラキラと光るそれを慌ててキャッチしてみれば、自転車の鍵。それと兵助との顔を交互に見やれば、彼は少し頬を赤らめ、す、と俺から視線を外しながら呟いた。

「お前と見るの楽しいんだから、早く帰ってこいよ」







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