竹久々

「あれ、ハチ、太った?」

いくら風呂上がりとはいえこのクソ寒い時期に半裸でいるなんて、こいつ大丈夫だろうか、なんて思いつつ、冷蔵庫の前で何かを漁っているハチをぼんやりと見ていて、ふ、と気づいたこと述べれば「げ、やっぱり、兵助もそう思う?」とハチのやつは振り返った。

「んー、何となくだけど」

久しぶり(といっても、まぁ一週間も経ってないけど)に見たせいだろうか、とまじまじと見遣ったけど、生憎、俺も風呂から上がってコンタクトを外したばかりで、ぼんやりとした輪郭でしか分からない。近くに行けばもっと分かるんだろう。けど、居心地のいいソファから離れる気にはなれなかった。ちなみに、この部屋には体重計はない。男二人で暮らすのに、そう必要性を感じないからだ。

「やっぱ、正月に実家帰ったからだろうな」

もう料理が豪勢で豪勢で、と続けるハチに、あぁ、と相槌を返す。すると思い起こしたのか「すき焼きだろ、寿司だろ、カニ鍋にしゃぶしゃぶ。おせちと餅もたらふく食ったし。あと日本酒も焼酎もビールも飲んだしなぁ」とハチはうっとりとしていた。

(まぁ、どこの家庭でも久しぶりに息子が帰ってきたとなると、だいたい同じなんだな)

昨日まで帰っていた自分の家のことを考えても、やっぱり同じようなメニューが食卓に並んでいた。

「あー、明日からの食生活を思うと、溜息ばっかだな」

冷蔵庫を覗きながらそんなことを呟いたハチは、缶らしきものを取り出すと、足で扉を閉めた。年末、帰省する前にほとんど空にした冷蔵庫だから仕方ないだろう、と言おうと思ったけれど「もうしばらく、ああいうのを食べれないかと思うと、何か泣けてくるな」と嘆くハチの声の方が先立った。

「あー実家は楽だよな。洗濯とか、まぁ、大掃除もしたけど、基本お客様扱いだし」

ハチの言いたいことも分からなくもないけど、せっかく久しぶりに会ったっていうのに、って思いの方が先行して。

「もっといたかったよなー」

そうやって羨んでいるハチに、つい、カチンと来てしまって。

「そんなに実家が恋しいなら、帰れば?」

つい口から零れてしまったけど、言ってしまってから自分でも何言ってるんだろうって思った。これじゃぁ、缶を持ったまま俺の方に近づいてきたハチの面持ちがにやけているのが、段々と分かってきて、ふん、と俺は顔を背けてやった。

「淋しかった?」
「……淋しくなんかありません」
「俺は淋しかったけどな。兵助と会えなかったから」

にやにやとしているハチの腹を思いっきり抓ってやる。ぶに。

「ってぇ」
「やっぱ、太っただろ」

ほんの少しだけど、いつもと違う感覚のするお腹に、俺はぐりぐりと頭を埋めた。

「淋しかったに決まってるだろ、馬鹿ハチ」




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