竹鉢

※チャットで話してた煙草ネタ

こほ。乾いた空気が咽喉にうっすらと積もっていく感覚に、軽く咳払いをする。俺よりも先にベッドから出た三郎が缶ビールを片手に戻ってきたかと思うと、足元が不意に沈んだ。狭いベッドの縁に腰かけた三郎はプルトップに指を掛けた。床だけを照らすルームライトは三郎の体躯に深い陰影を刻んで。元々細いんだろうが、ますます荒く削れているような印象を残す。何となく三郎を見ていると、ふ、と鎖骨辺りに情事の痕を見つけて、何とも言えねぇ気持ちになった。夜をさすらった指先は三郎ではなくそのまま毛布に行き着く。

(昔だったらこれで第二ラウンドに突入するところだよなー)

付き合いだした当初は、それこそ会ったらとりあえずばかすかヤってたけど、それをしなくなったのは、もう若くねぇって証拠だろうか。それとも、情が足りなくなったってやつだろうか。起こした上体の肌はそろそろ空調に冷えてきて、感覚がやたらと遠い。だが膚の下でぐずぐずと燻っている熱だけはやたらとはっきりしていた。その自覚はあるものの、下だけはもう着込んでしまった三郎を再び押し倒すのは面倒で、昂りを抑えるために視線をやつの顔に移す。喉を大きく上下させ、目を細めながらうまそうにビールを呷っていた三郎は俺の視線に気づいたのか、缶から唇を離した。てら、と濡れるアルコールを光らせたまま、その口が言う。

「やらねぇし」
「んなこと、分かってるし」

どうせそんなことだろう、と俺はそのまま、ぐっ、っと掌に込めた力を押しだして。ベッドから立ち上がり、備え付けの冷蔵庫に向かおうとして、ふ、とサイドテーブルに放り出したままの煙草を思い出す。先に一服するか、と、それを手にした俺を目敏い三郎が見とめたんだろう、箱の底を弾こうとした瞬間、声が掛る。

「ハチ、私にも煙草」

我儘な男だ、そう思いつつ、ついつい差しだしてしまうのは、惚れた弱みってやつだろうか。仕方なしに自分のためにと思っていたそれを奴に向けた。だが、「はぁ? それじゃねぇし。お前の、マズイ。苦い」と三郎は顔を顰めた。可愛くねぇ。まぁ、三郎は男だ。可愛くねぇなんて言おうものなら殴られそうだが、それにしたって可愛くねぇ。

「あのな」

さすがに文句を言いたくなった俺の唇は、けれども、じりっ、っと焦れるような熱で塞がれる。

「っ、」

俺の口から離れた三郎のそれは、さっきのとは違ったもので濡れていた。

「お前の煙草を味わうのはこれで十分だ」






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