鉢雷

「世の中には二種類の人間がいるのよん。憑かれる人間と、そうでない人間」

揺り籠から墓場まで、と称される商店街の外れ、そこに棲むの伝子さんは、霊媒師という謎の肩書を持っていた。

(そんな格言いらねぇし)

そうげんなりすり私を他所に「はい、祓えたわ」と伝子さんはウィンクを投げてきた。

(うげー)

声に出したら、そっこーで殴られそうだから口にはしないが、髭が生えだした夕方にバリバリメイクした伝子さんと会うもんじゃない、と心底思う。それでも、会わずにはいられないのは、私が所謂“憑かれる人間”だったからだ。ここ数日、どうも頭が痛いな、肩が重たいな、と思いながら帰り路を急いでいれば、案の定伝子さんに呼び止められた。「あら、三郎。今日は三人も引き連れているのね」と。

「で、今回の霊は何だったんですか?」
「あら、知りたい?」

にっこりと微笑まれて私は「や、遠慮しときます」と断った。どうせ見えないのだ。知ったって何の役にも立たない。

「まぁ、でも、そろそろ自分で祓えるようにならないと、後々苦労するわよ」
「そんなこと言ったって見えないんだから、祓いようがないでしょうが」
「それが不思議なのよね〜。あなたくらい憑かれやすい体質の人は普通、見えるのに」

そう。昔から家中の皿が割れたりだとか首を絞められたりだとかあって。色々と被害を受けているわりに、私は一度も霊を見たことがなかったのだ。------あの日、ハロウィンの夜に雷蔵と出会うまで。

***

「えーっと、トリック オワ トリート」

寝ていると、たどたどしい片言英語が降ってきた。何だ、と寝ぼけ頭のまま重い瞼を開ける。と、自分の眼前にふわふわと透ける笑みがあった。

「あ、起きた。トリック オワ トリート」
「は?…誰?」
「えーっと、トリック オワ トリート」

寝ていると、たどたどしい片言英語が降ってきた。何だ、と寝ぼけ頭のまま重い瞼を開ける。と、自分の眼前にふわふわと透ける笑みがあった。混乱する私を無視して雷蔵は「あ、見えるなら話が早いや。しばらく、僕、この家に棲むんでよろしくね」とすけすけの手を差し出した。

「はぁ?どういうことだ?」
「クリスマスキャロルって知ってる?」

質問を質問で、しかも意味不明な切り返しにイライラしつつ「冷酷無慈悲なじいさんが亡霊に過去とか未来とか見せられて改心するっていう?」と答えた。すると雷蔵は「よく知ってるね。つまり、そういうことだから」と言ってきたが、何がどう、つまりなのか。話の展開について行けない私に彼は「クリスマスまで、よろしくね」と笑った。------そうして、私と雷蔵の、2ヶ月間の奇妙な生活が始まった。






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