文仙

「何だ、文次郎。さっきから、苦虫をかみつぶしたような顔して」

それまでモニタの前で固定していた視線を、思わず床に飛ばしていた。さっきからラグの上で(仙蔵に買わされた、毛の長いやつだ)ごろごろと転がったり雑誌を読んでたり、と自由気ままに過ごしていた仙蔵に、気付かれていたとは思いもよらず、ぐ、っと息が詰まった。

「そんな眉間に皺を寄せてると、取れなくなるぞ。まぁ老け顔なのは今更だが」
「うるせぇ」

他人のことだと思って勝手にずけずけと言いやがって、と言い返したくなるが、ぐっ、と堪えて我慢する。こいつの口撃は半端ない、と身を持って知っているからだ。

「それで?」
「それで…とは?」
「そのレポートの何にそんなに頭を悩ませているのだ?」

そう問われたが、原因のそれは、言葉にもしたくねぇ。そんなこと口にしようものなら、仙蔵にからかわれるのが目に見えているからだ。(ぜってぇバレないようにしねぇとな)だが、その思いが顔に出たのを目ざとく見咎めたのだろう。新しいおもちゃを見つけた猫のように瞳を閃かせ、仙蔵がにじり寄って来た。

「ふーん」
「何だよ?」
「あやしい」
「あやしくねぇ。つうか、お前には関係ねぇだろうが」

慌てて問題のレポートを綴っていたノートパソコンに覆い被さる。

(とりあえず、たいして書いてねぇけど、これを見られなきゃ大丈夫だろう)

仙蔵の視界からパソコンを隠せて、ほっ、としてると、「何だ…『ILOVEYOUを日本語に訳せ』か」耳を疑った。「文次郎が『ILOVEYOU』とか、ウケる」と笑っている仙蔵の手には配布された課題が記された紙。パソコンを隠すことで必死で、床に置いたまますっかり忘れてた。

「ちょ、お前、ふざけるな。返せって」

慌てて手を伸ばす。ふ、と視線が絡まった。

「私より先に死んだら赦さぬ」
「え?」
「私が訳すなら、な」






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -