竹久々(R度高め・下の続き)

空調があまり効いてないのか、それとも平日の朝、しかもマイナーな社会派映画なために人が少ないせいか、思ったよりも映画館は寒かった。館内に入ったらすぐポンチョを脱ぐつもりだった。

けど、ひんやりと湿った雨上がりの空気がそのまま宿っている気がして、俺は着込んだまま上映を待つことにした。そのうち、暖かくなるかもしれないから、そうしたら脱ごうと。

だが、そのまま視野が薄暗くなり、始まった映画にいつしか夢中になっていて。すっかりポンチョの存在を忘れていた。

「っ」

驚きよりも先に、不意にひやりとした感触が熱情をなぶった。心臓がザワリと跳ねる。

「ちょ、ハチ」

ポンチョどころかその下の服をも越えて直接俺の膚を触れてるのは、上映しだして5分、俺の想像通り(なんたって社会派映画だ)呆気なく眠りに落ちたはずのハチの指だった。いくら人が少ないとはいえ、少し離れた所に他の客がいる。

(ちょ、いくらなんでも、ここはマズイだろ)

そう叫びたかったが、大声を出すわけにもいかず、睨み付ける。けど、その暗い翳に潰された彼の眼差しは艶やかな色にまみれていて、止まりそうもない。指先は際どい所まできていた。ごそごそ、と衣擦ればかりが聴覚を支配する。映画どころじゃない。このままじゃ気付かれる、とその腕を押し返そうとするけど、狭い座席で力が入らない。まさぐるハチの手のせいで、はだけた膚を毛糸のポンチョが擦れた。

「っ」

そのちくちくとした柔らかい棘ですら、必死に抑えている欲を逆撫でる。あれだけ寒かった体は熱に蕩けそうだった。

「暖かくなっただろ」

俺の耳を貪る熱さに耐えきれず、つい反論の声を上げようとしたけど、「バ」カ、という音はハチの唇に飲み込まれてしまっていた。ポンチョが大きく揺れ、そのまま欲情に溺れそうになる-------。







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