鉢雷
月見酒をしよう、と最初に度数の高い日本酒を注いだのは私だったが、途中でまどろっこしくなったのか猪口ではなく湯飲みから飲みだしたのは雷蔵の方だった。最初はケタケタと楽しく笑っていたけれど、器がでかくなり飲み干すのが早くなってきて。座りだした目に「そろそろ止めた方が」と止めたけれど、逆効果だったようで、湯飲みを空にしては新たに液体を満たす間隔が短くなっていくばかりだった。
「ずるい」
「雷蔵?」
突然、彼の口から転がった言葉は、ぽちゃんとお酒に落ちた。握りしめた彼の湯飲みは小刻みに震えていて、そこで泳いでいた月は溺れそうになっていた。
「さぁぶろうは…月みたいだ」
やや回ってない呂律はふにゃふにゃとした音を紡いだ。相変わらず半開きの瞼に、完全に雷蔵が酔っぱらっているのだと分かる。けれど、そこに宿る目の光は、月のそれよりも力強い。
「……月みたいって?」
「裏側を見せてくれないんだもの」
どういうことだろうか、と首を傾げていると、雷蔵は月を呑んだ。一気に干される湯飲みの酒。どかり、と床に置かれた空になった湯飲みの内側は、月明かりに照らされ艶々と優しい金色を帯ていた。
「辛いことがあるなら、話してよ。何のために僕がいると思ってんのさ」
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