竹久々

甲高い金属音が放たれた青空に白球が吸い込まれていく。悲鳴にも似た祈りがため息に代わった数十秒。俺の視線はボールでも相手側のアルプススタンドでもマウンドのピッチャーでもなく、隣にいるハチだった。このクソ暑い中、烏みたいな黒い学ランを羽織った上からたすき掛けをしたハチは、ぎゅう、と締めた捻り鉢巻から汗を溢しながら、勝負の行方を見据えていた。他の奴らみたいにどよめくわけでもなく、ただ真一文字に口を閉ざして。神様の天秤は気まぐれなんだ、そう彼が笑ったのはいつだったか。確か、まだハチが肩を壊して野球を辞める前、春の浅い日のことだったはずだ。次のチャンスがあると意気込んでいたハチに、その機会が訪れることはなかった。これからも、永遠に。閉ざされた夢の端で生きるのはどれほど苦しかったのか俺には想像できない。ただ、今のハチの望みは、彼の眼差しから分かる。だから、まだ夏を終わらせないでくれ、と俺は気まぐれな神様に希った。




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