鉢雷

暴力的なまでの雨は止むところを知らない。最初は耳に入り込む雨音が煩わしかったが、途切れることのないそれにいつしか馴染んでいき、しまいには、全く感じないまでになっていた。しっとりとした静けさを打ち破ったのは、僕と同室の彼だった。ごそごそと、何やら押し入れに積み上げられた行李を引っ張り出している。

「何をしてるんだい、三郎?」
「いや髷をね、準備してるんだ」
「髷?」

もうしてるじゃないか、と思いながら、彼の背後に近づく。と、半分に分け合った押し入れの中には組木細工のように物が几帳面に詰め込まれていた。

「だって、この湿気に、明日辺りにもっと爆発するだろ、君の髪。だからそれ用の髷を出そうかと思って」
「そりゃそうだけど…何もそこまでしなくても。別の人に変装してもいいんだし」

汗と湿気で背中でのたうち回る髪の鬱陶しさをよく知っているだけに、三郎の行動を止める。すると、彼は驚きに目を見張った。

「何を言ってるんだい。不破雷蔵いるところに、鉢屋三郎ありさ」




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