文仙

突然のプロポーズだったのだ。突然、とは少し意味が違ってくるのかもしれねぇ。前々から、こちらはずっとそれに近い言葉を口にしていたのだから。けど、この話題をするたびに、あからさまに仙蔵は避けているのが分かった。縛られるのが嫌なのだ、という台詞は芸術家らしいもので。だから、半分諦めかけていたところだった。約束などなくても、いつか別れが来るその日まで、共に生きることができればいいのだ、そう自分に言い聞かせていた。

(だから、正直、信じられねぇ部分があった)

まさか、と思ったのだ。仙蔵の口から未来を誓う言葉が出るなんて。「お前と共に生きたい」など。こいつにからかわれてるんじゃねぇか、と身構えてしまうのは、日頃の所業を考えれば当然のことだろう。咄嗟のことに、何か裏があるんじゃねぇと勘繰ってしまい、言葉が詰まった。

「何だ、お前は私のことを愛してなどいないのだな」

ぽそり、と呟く仙蔵の深い深い眼差しに己の間抜けな面が、くしゃりと歪んで映っていた。

「な、」
「そうだろ。すぐに返事ができないということは」
「違う」
「じゃぁ、なぜ、愛してると言ってくれない?」

改めてそう問われても、理由など一つしかない。恥ずかしい、ただそれだけだった。気持ちがないわけじゃない。だが、「愛してる」なんて言う柄じゃないことぐらい、自覚している。とてもじゃねぇけど、言えるはずもなかった。羞恥を堪えたせめてもの言葉が「一緒に暮らそう」といったプロポーズまがいの言葉だった。「愛してる」なんてくさい台詞を俺が言えるはずもないことなど仙蔵だって承知している、言わなくとも俺の気持ちは伝わってる、そう思っていた。

「一緒にいられたらいい、共に暮らそう、そんな表面の言葉ばかりで、私はお前の口から『愛してる』の言葉を聞いたことがない」

俺の思いとは裏腹に、仙蔵にそう言いきられて、ぐ、と、へしゃげたような呼吸音しか出てこなかった。

「私はお前のことを愛してる」

この夜闇よりもずっと美しい黒をした双眸が、まっすぐと「お前はどうなんだ」と問うていた。だが、この期に及んでも、俺はその言葉しか口にすることができなかった。

「……同じ気持ちだ」

+++突発的に、文仙でゴースト。




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