鉢雷

入った瞬間らいぞの足が止まった。あ、らいぞタイムが始まったと雑誌コーナーに移動。らいぞタイムとは彼が迷いだしたことなんだが、それを彼に言うと怒るから言わない。数十分、彼はショーケースの前でまだ迷っていた。今週の週刊マンガの中からめぼしい連載を読んで(結構、気にっていた作家の掲載順位が下がっていて、ショックだった)、それから、ゲーム雑誌で新作をチェックして、ついでに、テレビ欄が載っている雑誌で新ドラの視聴率なんかまで、俺が知りえてしまっても、なお。下手したら不審者扱いされたりするんだろうけど、その優しそうな見た目のせいか、それとも常連になっているせいかは分からないけれど、今のところ通報とかされたことはない。唸り声が聞こえてきそうなくらい頭を抱えている雷蔵に近づく。

「らいぞ、何と何で迷ってるの?」
「このさ新発売のアイス。サンシャインゴールデンサワーと、シルバーサンダーコーラってやつ」

雷蔵は指さした二つは、そりゃ、この中ではかなりの変わり種だといえよう。少なくとも、来シーズンに見かけることはない、そう断言できる代物だった。そして、そのカラフルな包装にはお約束のように『新発売』という文字が躍っていた。なんというか、雷蔵はそういう言葉に弱いのだ。『新発売』とか『期間限定』とか。あとは、ご当地ものなんかも。もちろん、その中でも美味いものがあるのは知ってる。

(この前のは俺もリピしたくらいだしな)

けど、その美味いものに当たる確率は全体の3割にもならない。たいていは、もう二度と買わない、と思うし、下手すれば口にした瞬間「無理」と思う物もある。それでも雷蔵は「三割バッターで一流って言うんだから、結構、当たってると思うけど」なんてわけの分からない理屈を通して買うのだ。別に、それはいい。雷蔵が買って食べる分には、別に。問題は……。

「どっちがいいかなぁ」

延々と悩み続けている雷蔵は、そのまま放っておけば、一日をこのアイスのショーケースの前で過ごせそうだ。だが、それでは私が困る。せっかくの休日なのだ。どこかに遊びに行きたいじゃないか。

「分かった、一つ私が買うから、後で半分こしよう」

私の言葉に、ぱっと雷蔵の顔が輝いた。嬉しそうに「いいの?」とショーケースへと手を伸ばした。




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