竹久々

弾く熱気。振動が直に体に響き、ビートを刻む。ステージの向こうは、真っ白だった。比喩でもなんでもなく、ステージライトのせいで逆光になってしまい、本当に白いのだ。眩しさのあまり、思わず手を額に当ててかさを作ろうとして、

「兵助」

ぱしり、と手首を掴まれた。

「ハチ」

その相手が誰かすぐに分かって、一気に、熱がそこに集中した。それまで会場と一体になっていた心臓の鼓動が、急に、リズムを崩す。「大丈夫だって」そうまっすぐ向けられた笑顔に、ますます、狂いだす。きっと彼は緊張しているだろう、とそれを解そうとしてくれたのだろう。けれど、それは逆効果というか、今の俺には掻き乱すだけだった。馬鹿みたいに早まる心臓が煩くて、周りの声がちっとも入ってこない。スタートの合図目配せする三郎に頷いたものの、いったんずれた歯車をどう戻せばいいのか分からなくて、パニックに陥った。

(やばい、最初の音、なんだっけ? あれ、歌詞は?)

あんなにたくさん練習したのに、と、ぐるぐる不安だけが巡る俺を置いて、最初のメロディが刻まれだした。

(怖い)

ステージの上に出た時は一度だって感じなかったその感情が、今になって湧き立つ。心臓が煩い。音が遠い。真っ白。きゅ、っと思わず目を瞑った。

「兵助っ」

耳元で熱が弾けた。隣にハチがいる。リハではなかった動きに混乱していると、ハチは奏でる音を止めることなく、いつもと変わらない笑みを浮かべた。その瞬間、めちゃくちゃだった拍動がきちんとリズムを取り出す。

「大丈夫だ。みんないる。俺も」




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