5い

密やかな闇はどこか碧い匂いがする。息抜きに、と開けた窓のから入り込む夜風はそのまま曝されるには冷たく、けれども発熱しそうなほどよく使った頭には心地よいものだった。

(ふぅ、終わった)

GWなんて関係ない、むしろ他の奴が遊んでいる時こそ差をつける時だ、と言わんばかりに出された大量の課題。まぁ高校生にもなれば家族旅行なんて柄でもないし、かといって特別やることもないし、と暇を持て余した俺は結局初日のうちにほとんどを終わらせてしまった。残されたのも、あと4日もあれば仕上がるだろう。

「明日はどうするかな」

家族旅行を断った手前、あまり遠出はできない。夜は留守番をしなければ行けないからだ。DVDか何かを借りてこようかな、と適当な予定を頭の中で立て、窓を閉めると冷えた肩を抱えて勉強机に戻る。と、放置したまま声を上げることもなかった携帯が振動を刻んでいた。

「誰だ?こんな時間に」

昨日、通学鞄から出したままのせいか、マナーモードになっていたけれど、その長さにメールではなく着信だということが分かる。サブディスプレイに表示される名前を確かめることなく、「もしもし」とボタンを押して通話口に臨む。繋がったラインの向こう、ホッとした声音が響いた。

「もしもし、勘ちゃん?」
「兵助?どうしたんだ、こんな時間に」

反響する音に自分の声との時差を感じながら返事をする。と、「あ、ごめん。もしかして寝てた?」と彼の声が萎んだ。慌てて「いや課題をしてた所だから」と否定すると「ちょうどよかった」と、ぱっと光が差したかのように彼の言葉が弾んだ。「課題のさぁ……」そう話を切り出した兵助に、「なぁ、明日っていうか、もう今日か。兵助、暇?」と誘いをかける。電話越しに「暇だけど?」と不思議そうな声音が響いた。

「ならさ、明日、うちに来いよ」

そう持ちかけると「行く行く」と明るい返答。自然に緩む頬が戻ることはなさそうだった。




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テーマ「人外ファンタジー」
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