竹鉢
額の辺りがこそばゆい。もぞもぞ、と動く何か。乾いた、何か、温かいもの。まるで、自分が氷か雪かになって、そのまま、ゆるゆると、溶けていきそうな気持ちになる。すい、と頬を撫でる風に混じって、土と草と光の匂い。
(ん?)
夢に投じていた意識が、その香りに惹かれる。そのままに瞑っていた目を開けた。
「おー、起きたか」
突然降ってきた声に、は、っと視線を上げれば、頭上で「珍しくよく寝てたなぁ」と日向を写し取ったようにハチは笑った。その距離に驚いて、がばりと身を起こそうとする私をハチは押し返してきた。勢いに押され、再びヤツの膝に頭を預けることになる。文句を言おうとすれば、先に「いいじゃん、たまには」と封じられた。
「何が」
「三郎が甘えてくるの」
「あ、甘えてなんか」
奴の言い草に撥ね退けようとしたけれど、ハチは「俺が甘やかしたいの」と幼子をあやす様に私の頭を撫でた。
(くっそ)
その行動にますます腹が立って、けれども、その手があまりに心地よいものだから。また、目を瞑る。瞼裏に淡い赤。優しい色。ハチの手が動くたびに、そこで光や影がうららかに揺れる。その気持ちよさに、ハチに撫でられては目を細めている犬や猫のことを思い出した。
(あいつらも、こんな感じなんだろうなぁ)
その掌に宿る温もりはちょっと手放しがたくて、目を閉じたまま、そっと指を伸ばした。空気が揺れる。ハチが笑ってるのだろう。じわりと温かさが胸に宿る。
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